槿花一日。






07


どうにかこうにか話題を無理やり明後日の方向に捻じ曲げて部屋を出る。部屋を出て扉を閉めたと同時に思いっきり壁に頭を打ち付けたい衝動に駆られたけどもしあのままマコちゃんが寝ようとしてたら五月蠅いだろうしジジイに何か言われるのも癪に障るから頭を打ち付けるのではなく壁にぐりぐりするに留めることにする。
本当に、昨夜はというかその前の晩も実はそうだったんですけどレディの寝ているベットに一緒に入るという紳士あるまじき行為をしている訳なのですけれどもこれには深い深い訳が、いやそれほど深くもないかもしれないのですけれども兎に角理由もなしにこのようなことをした訳ではないということを画面の前の貴女に分かって頂きたく思います、はい。
さて、本題に入ろうか。本題って何かって??勿論マコちゃんのことだ。『マコちゃん、貴女は!!俺に!!どうして欲しいんですか!!』と声を大にして問いたい。いや普通に考えて構って欲しくないのかなと思わなくもないんです。無いんです。俺、レディの空気だけは完璧に読める自信があります。しかしながらですね、その構うなオーラは果たして本音なのだろうかと疑わざるを得ないのですよ。どこにそんなところが有ったって??寝起きです。寝起きの時のマコちゃんが果たして同一人物なのかとさえ疑いたくなるレベルなのです。



Ж




買い出しに行って、更に病院も行ってとなるとそろそろ出ないといけないなぁと思い俺の部屋に向かう。今朝は結局ミルクプリンで機嫌を直してくれたようで助かったが今回は機嫌を損ねずにスマートに行けるだろうかと内心少し緊張しつつそっと扉を開けると、マコちゃんはまだ眠っていた。そりゃあ結構酷い怪我して漂流していたのだから体力も相当消耗しただろうし当たり前と言えば当たり前だ。やせ我慢もしていたとは言え、今朝みたいにスタスタ出歩けるほうがおかしいのだ。部屋に入り、少しベッドから離れたところから声をかけてみる。


「マコちゃん、出掛けるよ。」


しかし、一切反応は無い。熟睡しているのだろうか。ベッドに近づいて、


「マコちゃん、」


ともう一度声をかけるもやはり反応はない。顔を覗き込んで見るとやはり熟睡しているようだ。というか寝てると当然しかめっ面じゃないし妙な威圧感と言うか、むき出しの敵意というか突き放すようなオーラがなくって年相応というか、もう少し幼く見えるというかとにかく無防備な寝顔可愛いな、天使か。いや元から天使だった、そうだった。しかも枕握りしめた上にちっちゃく丸まって寝てるのがとてもキュートです。


「ハッ、可愛いって言ってる場合じゃねえな。マコちゃん起きて。」


今度は軽く呼吸に合わせて上下する肩を揺らしてみる。傷に響かない程度にそっと。つーか改めて触ると凄く肩細い。後今朝も思ったけど結構背もちっさいよなマコちゃん。こんなに小さくて、細っこいのに海賊なんてやってるんだよなぁ。等と思っていると、


「んう…??」


小さく呻き声がして、もう一度顔を覗き込むとうっすらと銀色にも灰色にも見える瞳が開いた。まだ眠いのか、開き切らない瞼を何度か開け閉めしてからゆったりと腕を布団から出すと目を擦った。


「おはよう。出掛けるけど起きれる??」


その動作も凄く可愛いのだけれども如何に可愛いかを語るよりも先に俺は彼女を病院に連れていくと言うミッションがあるのだ。なるべく優しく声をかけるが、マコちゃんはまだ目覚めきっていないのか緩慢な動きでこっちを見上げてきた。


「でか、ける……??」

「うん。船で行くから移動して欲しいんだけど行ける??」

「んぅ……、」


返事はたどたどしいが話は通じているらしく、のそのそと起き上がるマコちゃん。肩から布団がずり落ちると共に、シャツの裾から足の付け根辺りが見えていたが今はガン見しちゃだめだと言い聞かせ必死に目を逸らす。今朝も思ったけど細すぎず筋肉つき過ぎずでとてもやわらかそうないいラインしてる脚ですありがとうございます。って見ちゃダメだって俺!
煩悩と戦っている俺をよそに、まだ目が醒め切らないのか起き上がったままベッドに座ってぼーっとしているマコちゃん。


「ほら、マコちゃんのブーツちゃんと乾かしといたからもう履けるはずだよ。行こう?」


と、ベッドの脇に置かれたショートブーツを指すと立つのもしんどいだろうし肩を貸すべく少しマコちゃんに近付く。すると、


「む…、」


何を思ったかマコちゃんは、俺の首に腕を伸ばししがみついてきたかと思ったらそのまま体を預けてきたではないか。あまりに突然のことにピタリと動きを止める。さっきから煩悩が止まらなかったのにその煩悩を抱いていた体がしな垂れかかってきたのだからそりゃもう大変な訳ですよ。そっと下を確認した程度には。とりあえず紳士としての威厳は保てそうで安心しました。


「マコちゃん、」


 どうにか名前を呼ぶのが精一杯で、本当にどうしたものかと心臓が飛び出しそうな口を噤んでそっと彼女の方を見る。すると、すやすやと寝息を立てて俺にしがみついたまま再び寝入ってしまったようであった。
 そのまま起こさないように彼女から顔を逸らし、静かに大きく息を吸ってそして吐いた。寝ぼけていらっしゃる。それは分かった。しかしながらそこで寝なくてもいいんじゃないですかと思いつつでも時間は差し迫っているのでもう最終手段だと腹をくくる。


「寝てるなら、運んじゃいますよー…。」


 俺は小声でそう話しかけ、返事がないことを確認すると、起こさないようにまずはそっとしゃがみ、彼女のブーツを拾う。そしてしがみつかれたまま運べるよう横抱きに抱いて立ち上がる。まだ彼女からは小さな寝息が聞こえるだけだ。


「軽いな…。」


起きようとしない無防備な彼女は起きている時よりも重く感じるはすなのに、抱きかかえてその重さに思わず感嘆の声が上がった。いや、独り言で起こしてはいけないと静かに足で部屋の扉を開けると、そのまま買い出し用の舟へと向かった。



Ж




 以上が寝起きのマコちゃんの様子です。可愛いが過ぎるが?ともう一度頭を壁に打ち付けたくなってぎりぎり留まった。いい加減出勤してきたクソコック共の視線が痛いからキッチンに向かわなければならない。
 本当に甘えたいのならいくらでも甘やかすのに、目が覚めてる時にそんなことしようものなら次こそ刺されるかもしれないからなぁ。と後ろ頭を掻きながら軽くため息をついてキッチンへ向かう前に洗面所に向かうことにしたのであった。



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