04走り出した背中を追い掛けることはしなかった。いや、ただ単に立ち尽くした。自分から会いに来るなんてことはしないことは分かってた。だけど、迎えに行けば、照れながらもこっちに、俺のとこに来てくれると思い込んでいた。
逃げられるなんて、思ってなかった。
最後に顔を見たのは、随分前で、手紙のやり取りをしていた訳でもなく、それでも、彼女は俺を好きだと絶対的な自信があった。
「おい、サンジ!!白ポンチョ追い掛けねぇのか!?」
ルフィの声がまるで他人への呼び掛けのように、頭の表面を滑っていった。
Ж「ちょっと、ルフィ!!」
サニー号に戻ってきた俺を小声でナミが呼んだ。
「なんだぁ??」
「なんだ、じゃないわよ!!どうしたのよサンジくん!!見るからに凹んでますオーラ漂ってるじゃない!!」
ナミが指した先にはキッチンで黙々と作業するサンジ。
「あぁ、なんかよぉ白ポンチョに……、」
その名前が出た瞬間、サンジが派手な音を立てて、皿を落とした。
「わ、大丈夫??サンジくん。」
滅多に無いことだから、ナミが慌てて駆け寄る。
「え、えぇ大丈夫ですよナミさん。ご心配なく。」
ははは、と渇いた笑いを見せるサンジに、"そう??"と聞いてからナミはこっちに戻ってくる。
「重症じゃない!!普段なら、『んナミすぁんが俺のこと心配してくれるなんてー!!』とか『ご心配には及びませんよ、マドモアゼル??』くらい言いそうじゃない。」
「ナミおめぇサンジの真似上手いなぁ、」
「そういう話じゃないでしょ馬鹿!!」
サンジの真似したり怒ったり忙しいナミに、ロビンがやって来て言う。
「もう少し、経過観察でいいんじゃないかしら。今別に急ぎじゃないでしょ??もう暫くこの島に居たらいいんじゃないかしら。」
「そうだけど、あれはあれで気持ち悪いっていうか……、」
そう言ってナミが顔に手を添えて溜息付いて、振り返る。
「ね、サンジくん。」
「なんですか、ナミさん。」
その呼び掛けに、答えたサンジは、言われてみれば、元気がない。
「ご飯とかおやつは自分達でなんとかするから、ね??」
サンジがこちらに顔を向けた。申し訳なさそうに笑うと、
「すいません、じゃあこれだけは作ってくんで、そのあと買い出しに行きます。」
と言って、作業をさっさと終えると船から出て行った。どこか上の空な様子に、
「別に買い出しもいいのに。」
とナミがまた溜息付いた。
「ルフィは、またあの子探しに行ったりしないの??」
そう言うロビンに、
「そういえばそうね、普段なら"仲間になれー!!"って追い回すのに。」
ナミも頷く。
「いやぁ、俺もそうしてぇんだけどよー。なんか今じゃねぇんだよなぁ。」
「ふーん、ま、いいけど。」
やれやれといった風なナミが、サンジが作ってった物を取りにキッチンに向かおうかと足を向けた時だった。騒がしく扉が開き、
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
ウソップとチョッパーが叫びながら駆け込んできた。
「なんなのよ騒がしい!!」
ナミが怒鳴ると、
「な、なななナミ!!この島はいつ出発するんだ!?」
「なんなのよホントに。今もう少し出港を遅らせようかって言ってるところだけど。」
「だ、ダメだぞ!!ナミ!!この島おっかないから早く出よう!!」
なんだか凄く慌ててる二人。
「あら、あなたたちも脅されたの??」
とは、反対に落ち着き払ったロビン。
「そ、そうだ!!っておめー!!脅されてなんでんなに冷静なんだよ!!」
ウソップがそんなロビンに目を見開いて叫ぶ。
「脅された……??」
ナミが聞くと、ロビン曰く、路地裏を歩いて居たら突然、『麦藁の一味だな。今すぐ、今すぐこの島から出て行け。』と脅されたとか。
「だからぬぁんでおめーはそんな冷静なんだよ!!」
「相手が分かったから、かしら。」
「あん??」
ロビンの言葉にウソップが目を白黒させる。
「ロビン、あのおっかない奴知ってるのか??」
チョッパーもビクビクしながら尋ねる。
「えぇ、直接は知らないけど、今までのことを考えると、多分、サンジの探し人だわ。」
「んん??白ポンチョがか??なんで俺らを追い出そうとしてんだ??」
助けてくれたいい奴なのに、とそこまで言うとふとさっきのサンジと白ポンチョのやり取りを思い出す。
「あ、もしかして…!!白ポンチョ、サンジのこと嫌いなのか!!」
「なんであいつが出て来んだよ。」
「さっきよぉ、サンジと白ポンチョに会いに行ったら逃げられたんだ!!絶対そうだ!!サンジあんにゃろー!!」
そう思うと腹が立ってきて、叫んだ俺に、
「いや、多分、逆じゃないかしら。ねぇ、ロビン。」
「そうねぇ、私もそう思うわ。」
揃って否定するナミとロビン。
「これも、さっき立ち聞きした話なんだけど、」
と、ロビンは続けて言った。
Ж心がざわついて落ち着かない。何本も何本もタバコに火を付けちゃ、煙を吐き出して、空を見た。うっとうしい曇り空だ。
「親父、魚安く分けてくれな…………、」
「まったく、可哀相なもんさ。」
「本当になぁ。まぁ、あの白ポンチョの姉ちゃんのおかげで俺ら平和に暮らせてんだけどなぁ。」
魚屋に入ると、店主に声をかけようとした時、店主とおっさんが話していた言葉が耳に付いた。
「な、なぁ、親父。今の話………………、」
「あ??白ポンチョの姉ちゃんの話か??」
「あぁ。詳しく、教えてくれないか。そいつ、知り合いなんだ。」
Ж夜中のことだった。突然船に衝撃が走って、ベッドから転げ落ちた私は目を覚ました。
「――――――っ、な、」
夜中にも関わらず、空は真っ赤に染まり、明るかった。敵襲の知らせもなかったのに、慌ててポンチョを着て、獲物であるナイフを腰に。息を切らして甲板に出た時にはあちこちから火の手が上がっていた。
「なん、で…………!!」
みしみしと嫌な音が船からして、振り返ると、燃え盛るマストが私に向かって倒れてきていた。
「マコ!!」
名前を呼ぶ声がして、持ち上げられた瞬間、マストが私がさっきまで居た場所に倒れた。甲板が割れる。
「キャプテン!!」
私を助けた男にそう話かけるとおでこを小突かれた。
「ったく、お前布なんだろう??燃えたらどうするんだ。」
そう言って船長は笑みを浮かべながら、懐から包みを出して私に渡した。
「これ、」
それは、船長が代々受け継いでいる、代物。
「お前にやる。それから、逃げるんだ、マコ。せめて、せめてお前だけでも……、」
次の瞬間、爆発が起きてそれに合わせて放り上げられた。爆風と、上昇気流で、身体が空に上がってく。
「いや、いやだ、キャプテン!!!!」
叫んでも、返事はなく、身体はひたすら空へ飛ぶ。
「キャプテン!!―――――――っ、と、父さん!!」
声が裏返るほど叫んだその瞬間無情にも更に大きな爆発が起きる。
「あ、、うぁ、やだ、いや、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
溢れる涙を雑に拭うと、海上に放り出された自分が海に墜落しないよう必死に爆風と潮風に縋った。
「………てやる、」
真っ暗な曇天の下、足元に赤い炎を見て滲む視界の中呟いた。
「……あいつら、あいつら全員殺してやる……!!」
ギリリと歯ぎしりした声は、奴らに届くことは無かっただろう。
「死ぬもんか、あいつら殺すまで、絶対死ぬもんか……!!
誓いの言葉が暗い空に響いた。
Ж乱暴に扉を閉めて、鍵をかけると、ズルズルとその場に座り込んだ。呼吸が荒い。肩が上下して、心臓が五月蝿くて、何より目頭が熱かった。
『マコ!!』
頭に響く声を掻き消そうと、床をぶん殴る。
「………呼ぶな。」
『マコ、マコ。』
「呼ぶなよ…………。」
足を引き寄せて、体育座りをして、縮こまる。頭を抱え込む。
「なんで、今…………、もっと、もっと早く来てよ…馬鹿。」
この島に死ぬ思いをして漂着した時に、もし、居てくれたなら。それか、奴らがこの島に来るかもしれない、なんて噂が聞こえる前だったら、それならよかったのに。なんてもしも話を振り切るように頭を振って、崩れないように、自分が、崩れ落ちないように、ギュッと小さく小さく縮こまる。
「…ばか、」
考えるな、あいつのことを。辛くなるから、あいつのことを考えるな私。なんていくら自己暗示のように頭で唱えても、そう簡単にいくわけもなく、
「ばか……………っ、」
余計に愛しく感じてしまうのはなんでだ。
「馬鹿じゃなくて、名前で呼んでくれないかい??マイハニー。」
突然、頭の上から声が降ってきて、それから、頭を撫でる掌。顔を上げると、
「な、んで、」
「んー、愛の力ってやつだな。」
なんてふざけて笑う、ふざけた眉毛がいた。
「ば、か。」
声が震えた。
「ばぁ、か。」
視界が滲んでまた頭を伏せる。
「…………、来るなよばーか。」
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―――――――
主人公もサンジも揃って
病みすぎだ……、
暗くってごめんなさい←
そして、もう暫くこの話暗い←