槿花一日。







02



「んだとてめぇ!!」

「何だ事実だろ文句あんのかクソコック。」


パティと言い争いが始まった。良くあることだ。時刻は9時。開店にはまだ早い時間。


「すかしやがって!!」


そう言ったパティが飛び掛かってきた時、厨房から奥に行く扉が開いた。素早くパティをかわすと、扉に駆け寄った。


「お目覚めですか、レデ、ィっ!?」


扉を開けた人物にお辞儀をして、顔を上げた途端目の前にナイフが突き付けられていたもんでのけ反った。昨日の弱った様子は何処に行ったのやら。俺を一瞥すると、


「あぁ、昨日のやつか??」


眉間にシワ、目を細め、腰に手を宛て仁王立ち。見上げられているはずなのに見下されているように錯覚するほどに殺気や威圧感があった。敵意の無いことを示すのに両手を挙げた。


「ここ、何処だ??いや、誰の船だ??って聞いた方がいいか??」


小馬鹿にしたような笑みでそう言った彼女を見てつい、ポロッと言葉が漏れた。


「せっかくかわいい顔してるんだから普通に笑った方がいいですよ、レディ。」

「は??」

「「ナイフ突き付けられてんのに口説くな馬鹿野郎ー!!」」


そう口々にに叫ぶ野郎共。分かってるよ馬鹿野郎。俺だってなんで口説いたんだかわかんねぇよ。と思ったが、その言葉が発せられる前に世界が回った。


「―っ!!?」

「次、」


背中に衝撃、乱雑にネクタイを引っ張られ、足を払われたのだと気付く。


「その虫ずが走る呼び方してみろ、喉笛えぐってやる。」


俺の鳩尾に片膝ついて、額を突き合わすように睨む彼女。


「これはこれは勇ましいレディだ。しかしこの体制だと下着見えますよ??」


だ か ら お れ は な に を。また口をついて零れた言葉に顔が引き攣った。いや、でもシャツ一枚しか着てないからこれは見えるだろうと視線を下ろしてみる。残念ながらぎりぎり見えなかった。


「なっ、何処見てんだ!!そんなに死にたいか、あんた。」


俺の視線に気付いたのか慌てて足を閉じてシャツの裾を引っ張る彼女。その体勢はそれはそれで彼シャツに恥じらうレディのようでおいしいですありがとうございます。


「おい、副料理長様が鼻血出してるぞ。」

「最低だな。」


無意識に鼻血が出て、彼女の視線がゴミを見る目に変わりました。と、そこに扉の奥から再び人影。


「てめぇら、騒いでんじゃねぇぞ!!」


一喝。


「「「はい、料理長!!」」」


途端にピシッとなる厨房。


「てめぇらもだ!!」


容赦なく俺に向かって振るわれた足をかわすと、彼女も瞬時にその場を逃れていた。


「それに、女がそんなはしたねぇ格好すんじゃねぇ!!」


あっさりと彼女の手首を捕らえ、半ば引きずるように厨房から出ようとするジジイ。一瞬こっちに視線寄越したからこっちに来いということだろうか。


「……離せ赫足。」


自分を引っ張るジジイが気に喰わないようで、ジトとジジイの背中を睨みつけたまま渋々といったようについていく彼女。俺の部屋まで連れて来られると部屋に放り込まれた。


「なっ、」

「大人しく寝てろ怪我人が。」


ベッドを顎で指したジジイ。不満げな顔でベッドに向かう彼女。ジジイは俺の椅子に勝手に腰掛けた。


「で、おめぇ何者だ。」

「……………。」


ジジイの質問に、ベッドに腰掛けた彼女は無言で応えた。


「……先にこっちが名乗れってか??」


肝が据わったガキだ、とほくそ笑んだジジイが口を開こうとした時、


「あんたは赫足のゼフ。此処は海上レストラン、バラティエ。」


無愛想にそう言い切った彼女に目をしばたかせた。


「知ってる。間接的な知り合いだからな。」


その高い声に似合わぬ不遜な物言いに、先程と同じように何か迫力のような物を感じた。


「あいつの孫か。」


考えるように髭を弄りながらジジイが言った。


「正解。」


それを聞いた彼女がニヤリと笑った。話について行けない俺。とりあえず、ジジイと彼女の祖父が知り合いだということは把握した。


「私はマコ。職業は言う必要ないな??」


足を組んで、ニヤリとした笑みのまま首を傾げた彼女、改めてマコちゃん。


「ぬぁんて可愛らしい名前なんだぁぁぁぁ!!そのクールな態度も素敵だぁぁぁぁ!!」


思ったままに叫べば、ヒュッと耳元を何かが通り抜け、背後で何かが固い物に刺さった音がした。顔が引き攣り、恐る恐る後ろを見れば、


「次は眉間狙ってやる。」


そんな物騒な言葉と共にナイフを確認した。生唾を飲み込んだ。


「サンジ、こいつに何か飯持って来てやれ。」


ジジイがため息をつきながら言ったのを聞いて我を取り戻した。彼女の方に向き直り、近寄る。


「ご注文は何かございますか??レデっ!?」


言い切る前に顎に衝撃。


「しつこい。注文??何でもいい。あんま量はいらない。」


顎に裏拳を喰らったようだ。めげずに再び彼女を見て、微笑んだ。すると彼女は再び眉をひそめた。


「かしこまりました。何か食べたい物はございますか??」

「ない。」


フン、と鼻を鳴らして彼女はそっぽを向いた。


「では、少々お待ちください。」


お辞儀をすると、2人を置いて部屋を出る。結構人を突き放すような物言いだがきっと人見知りか恥ずかしがり屋なのだろう。現に俺とは録な会話に成らなかったがジジイとは会話してたじゃないか。可愛らしいレディだ。と笑みを浮かべ厨房に向かった。





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