槿花一日。






22

「どーも、」


あれから島に戻って、自分の荷物纏めるからって言って他の奴らと別れた。


「はいよ、いつものね。」

「あ、いや、一箱じゃなくて。ありったけ頼む。」


慣れたタバコ店のカウンターで、なんら変わりなく、いつものように一箱差し出した店主にそう断れば目をしばたかせた後、顔を緩ませなんだか嬉しそうに奥に引っ込んだ。


「行くのかい??マコちゃん。」

「うん。」


その会話を聞いていた近所のおばちゃんに頷けば、


「そう。」

「うん。」


やっぱり顔を綻ばせる。


「じゃ、これ餞別。」


そう言って差し出された飴を受け取れば、それを皮切りに周りが我も我もと渡してきて。「持ち切れない。」と断ろうとしたら大きな紙袋まで渡されて。


「ありがと。」


タバコ屋の店主が出てくる前にそれは山盛りに物が詰め込まれていた。お菓子に酒、果物等々。一緒に詰め込まれた妙に暖かな彼らの心がむず痒い。


「それじゃ。」


タバコを受け取り、代金を払って、ヒラヒラと後ろ手に手を振った。


「気が向いたら、また来るよ。」


一時ながらも世話になったこの街に。




Ж





『えー、それでは新しい仲間の乗船を祝しまして、乾杯!!』


一人でフラリと街に行って帰って来るなりあっさりと、「もういいよ、船出して。」と言ったマコ。もう見えなくなった島に、未練が残っていないとでも言うように。
ウソップの音頭で始まった宴も続々と沈没者が出て来た頃、船縁に寄り掛かり甲板で寝転がる奴らを眺めながら今だ起きている彼女がいた。


「まだ飲んでんのか??」


ヘラリと笑ってその横に行けば、一々グラスに移して飲むのが面倒になったらしい彼女はボトルを傾けてからこっちを振り返った。


「ご覧の通り。でももう無くなった。」


そう言って、振っても音がしないボトルを振って、足元に置いた。


「そうか。まだ飲むか??」

「あんたが飲むなら付き合うよ。」


尋ねた俺に、タバコをくわえながら彼女は答えた。チッとライターで火を付ける音がして、煙が夜風に踊る。


「じゃあ、止めとくか。火貸してくれ。」

「どーぞ。」


またライターの点火音がして、もう一筋煙が上った。


「マコさ、」

「ん??」


ライターを返して一言。


「よかったのか??やけにあっさりと出港したけど。」

「あぁ、別に。」


答えながらマコは甲板から視線を海にやり、体もそっちに向けると船縁に肘を付いた。


「いいんだ。端から仮屋のつもりだったし。」

「そうか。」


俺も同じ方へ向いた。


「それに、私が定住しそうに無いのは知ってるでしょうに。」

「……だな。」


同意した俺に彼女はクスリと笑みを浮かべ、


「私は海の上が性に合ってる。それに、」


マコが不意にこっちを見た。視線が重なる。


「そこにサンジが居るとなったら他に迷いようが無い。」

「―――――っ!?」


笑顔と口説き文句のコンボに胸を撃ち抜かれ、何も言えなくなった俺に彼女は「まぁ、島以外の未練はあったが、それも無くなったしね。」と言って、それからフフッと声に出して笑った。


「ちょ、それ反則だろ……。」


思わず赤くなって顔を押さえる俺に、


「酔ってるから。」


と、訳のわからない理由が返ってくる。


「んだよそれ。ったく、じゃあ酔ったついでに抱きしめていいか。」


赤い顔を見られたくないのと、頼みが駄目元なのとで、ちらりと横目にマコを見れば、俺の携帯灰皿に勝手にタバコを突っ込んでから、


「どーぞ??」


と首を傾げるもんだから、遠慮なく抱きしめた。なんだかマコがデレ過ぎて心臓おかしくなるんじゃねぇかと思う。


「あー、明日以降の反動が恐ぇ。」

「ん??そうか??」

「まぁ、ツンなとこはツンで可愛いだけどなぁ。」


なんて言いながら何と無くフカフカする頬を突いたら少し不機嫌そうな顔になったから止めた。


「ま、これからずっと一緒なんだし、その内またデレるんじゃない??」

「何だよその人事みてぇな。」

「だって、明日の私の気分は明日の私にしかわかんないし。」


なんて馬鹿らしい話で笑い合って。軽くキスをして。


「それもそうか。」

「でしょ??」


くだらない些細な時間が素晴らしく愛しくてならない。


「二日酔いで体調悪くてデレるとかも絶対無いもんな。」

「酒強いからな私。」

「知ってる。」

「知ってるって知ってる。」


もう一度ぎゅうっと抱きしめた。


「そろそろ寝るか??それともヤ「よし、寝るか。」


わざわざ耳元で言ったにも関わらず、スルリと腕から抜け出された。


「残念。じゃあせめてもっかいぎゅーとちゅーと。」

「はいはい。そんなん何時でも出来るだろうに。あんたが手放さなきゃさ。」

「手放す訳ないだろうが。マコが俺に飽きない限り。」

「じゃあ、そんな時は一生来ないな。」


俺の腕の中で、そう言って俺を見上げたマコに再びキスをした。














(ずっと、一緒に居て。)





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