06「チョッパー、あいつは、」
そーっと静かに扉を閉めて、チョッパーはこちらに歩いて来た。
「気を失ったと言うよりは寝ちまったの方が正しいな。酷い睡眠不足と軽い栄養失調だな。しっかり睡眠取って、サンジの料理食べたらきっと元気になるゾ!!」
そう言ってこっちに向かってニコッと笑った。俺は深刻な病気じゃなかったことに安堵し、ため息をつきながらカウンターの椅子に座り込んだ。
「とにかく良かった。ありがとな、ドクター。なんか飲むか??」
「ど、ドクターなんて言われても嬉しくねぇぞ!!コノヤローがっ!!」
締まりのない顔で、ニコニコと上機嫌になったチョッパーに、ココアでも入れてやればいいかと、立ち上がった。
「サンジーー、はぁら減っ、もががっ」
「ちょっとルフィ、静かにしてくれっ!!」
そんなタイミングでクソゴムがダイニングにやって来て、大声で叫びやがるから、チョッパーが慌てて口を塞ぎに行く。
「なんで静かにしなきゃ……、ってあぁああ!!サンジ!!そうだ、おれはお前に怒ってたんだ!!」
チョッパーに口を解放されたルフィが首を捻ったかと思えば次の瞬間叫んだ。
「だ か ら 、 叫ぶなっつってんだろがこのクソゴム!!」
ちょうど入れ終えたココア入りのマグカップ片手に、ダイニングの方に出ると、それをチョッパーに差し出してから、ルフィに踵落しを食らわせた。
「大体なんでてめぇに怒られなきゃいけねぇんだ。」
タバコをくわえ、火を付けた。
「お前、白ポンチョになんかしたんだろ!!」
「は??」
「白ポンチョはお前のこと嫌いだから仲間になってくんねぇんだ!!」
「ちょっと待て、話が見えねぇんだが。」
訳のわからない怒りに眉間にシワ寄せて額に手を宛てため息をつく。紫煙が昇った。
「ちょっとルフィ!!だから違うって言っ「うるせぇ!!」
焦って立ち上がったナミさんの言葉を遮り、ルフィはゴキリと手の関節を鳴らす。
「俺は怒ってんだ。」
「だから訳わかんねぇって。」
その時視界の端、フローリングの上にロープが見えた。
「好きだったら追い出す訳ねぇ。」
「はぁ??」
「問答無用だ!!」
疑問を覚えたがルフィが拳を握ったのでそれどころじゃないと、足を上げるが、一瞬早くロープが動いた。
「!?」
ロープが突然重力に逆らいルフィの、今にも俺に殴り掛からんとしていた手を捕らえて右に逸らしたのだ。
「な、なにあれ!?」
「「ぎゃーー!!ロープの化け者ーーー!!」」
ルフィはバランスを崩し、2、3歩よろけると、
「す、すっげぇ!!不思議ロープか!?」
今怒っていたのも忘れて目を輝かせる。
「医務室から続いてるわね、」
ロビンちゃんがそう言うと、ロープがルフィの手から離れ、何かに引っ張られるように、医務室に引っ込んでいく。
「い、医務室に、おば、お化けが居るのか!?」
涙目のチョッパーがそう言うと同時に、医務室の扉が開いた。
「ヒッ!!」
「化け物じゃない。」
カツン、と足音がしてロープが宙でとぐろを巻く。
「ただの能力者だ。」
とぐろを巻くロープが解けて布に変わり、最後には腕に変わるのをナミさん、ブルック、チョッパーが口をあんぐりと開けて凝視する。
「私が原因な上に、なんだか誤解があって、更に船破損で私にも危害が及びそうだったから止めてみたけど、よかった??」
そんな視線に構うことなく、俺を見てマコはそう言うと首を傾げた。
「あぁ、助かった。」
「なら良かった。」
ついさっき気を失ったばかりだと言うのにスタスタと平気な顔してマコはこっちに歩いてくる。
「あ??白ポンチョがなんでいるんだ??つーか不思議ロープが白ポンチョ??白ポンチョが不思議ロープ??不思議ポンチョか??」
「…………それ、私のこと??」
疑問符を浮かべて首を捻るルフィに、呆れた顔をしたマコは言う。
「不思議も何も能力だって。」
軽くため息をつき、彼女はポケットからタバコを取り出してくわえ、ライターを取り出してから
「………吸っていいよね??」
とちらっとこっちを見る。
「俺目の前で吸ってるだろ。」
「一応。」
言うや否や火を付けると、煙を吐き出して、
「でさ、今更だが。ここは麦藁の一味の船でいいのか??私が気失いでもして、サンジが血相変えて船医にでも見せに駆け込んだ、で合ってる??」
そう言って遠慮なくカウンターの椅子に座った。
「当たりよ。良く分かるわね。」
「んー、勘で。」
ダイニングのテーブルに座るナミさんが感心したように言うと、マコはニッ、と悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「おい、お前!!」
まだビビっているのか椅子の下に隠れたチョッパーが恐々マコに声をかける。
「ま、まだ寝といた方がいいから寝とけ!!」
そう言ったチョッパーをマコは目をパチクリさせながら眺めると、首を傾げ、チョッパーに近付いた。
「………………。」
「なななな、なんだお前!!」
チョッパーの近くにしゃがむと、無言でチョッパーを凝視する。一方チョッパーは更にビビる。
「ヨホホホー!!珍しいでしょう!!彼は船医なのですよー!!」
そんなマコの後ろに立ち、マコを見下ろしながらブルックが笑う。その声に振り返ったマコは、
「―――――――っっっ!!!?」
よほど驚いたか、少し飛びのいて、目を見開き、口をパクパクさせながらブルックを指さして、俺とブルックを見比べた。
「ガ、ガイコ、ツ……??」
「ヨホ。いかにもわたくし骨だけ。」
ブルックが再び喋ると今度は弾かれたように俺の後ろに隠れる。
「何、あれ何。」
俺の右腕にしがみついて、肩のとこから顔半分だけ出して、手がプルプル震えてるのはきっと恐いからじゃなくて、ぎりぎりまで背伸びをしてるから。
「あぁ、ホネ。」
「ブルックはヨホホで骸骨で音楽家だぞ!!」
「うん、わからない。」
俺のざっくりした説明とルフィの説明に頷くマコに、
「あ、そうだお嬢さん、パンツ見せて頂いてよろしいでしょうか??」
と、ブルック。俺がブルックの顎を蹴り上げるのと同時に、俺の肩を使い、腕力だけで自分の体を跳ばし、宙返りしたマコがブルックに踵落としを喰らわせた。
「ヨフォゴはっ!!」
「あ、つい反射で。」
「いや、構わねぇさ。寧ろ頭蓋骨砕いたっても構わねぇ。」
奇声を上げながら突っ伏したブルックを一瞥する。
「え、叩き割ってもこの生命体大丈夫なの??」
くわえたまま大分類が灰になってしまったタバコを灰皿に押し潰しつつ、マコはブルックを見下ろした。
「ち、小さくて可愛らしい割に破壊力抜群……ゴフ、」
ぴくぴくと痙攣していたブルックが力尽きたと同時に、マコの目付きが悪くなる。
「小さい…………??」
「げ、落ち着けマコ。そのホネがでけぇだけだ。」
そのワードは彼女には禁句である。なんて俺以外の奴らが知る由も無く、1人で冷や汗をかく。と、そこに更に、
「おい、コック酒のつまみ………ってなんだそのチビ。」
タイミング悪くマリモヘッドが、マコを見た。
「……どいっつもこいつも、」
プツンと何かがキレる音がして、
「チビチビって言いやがって!!そこの二足歩行縫いぐるみよりでかいからな!!」
ビシッとチョッパーを指さして、どうだと言わんばかりに言い切ったマコ。どうやらチョッパーを縫いぐるみと認識したようだが、
「オレ、人型ならお前よりでかいぞ。」
当のチョッパーはそう言って、テーブルの下から出ると人型になって見せた。
「…………。」
黙ってチョッパーを見上げるマコに
「やっぱチビじゃねぇか。」
と、クソマリモが付け足した。
「や、野郎共と比べるからだ!!女子どうしなら……!!」
と、テーブルの向こうに居るナミさんとロビンちゃんの方へ歩み寄るマコ。
「マコ、止めた方が……、」
「なんで。」
ナミさんの横に立ってからマコは俺を振り返る。
「いや、うちの美人クルーは……、」
「………………、」
言い終える前に、ナミさんを"見上げる"ことになるマコ。
「割と、背が……高いんだが。」
「畜生!!滅びろ高身長!!」
ズカズカと叫びながら俺の方に戻って来ると、俺の首にしがみつき、八つ当たりか肩をバスバスと叩いた。まぁ、叩かれてもびっくりするくらい痛くないのだが。
「なぁ、チビポンチョ。」
「窒息死したいか??」
俺の肩越しに睨みつけるマコに構うことなく、ルフィは続けた。
「お前、サンジのこと嫌いなんじゃないのか??」
「見てわかんない??」
人前にも関わらず、ベタベタと抱き着いているというのに、キョトンとする我等が船長の鈍さというか最早常識の欠如に近いんじゃないかと思う台詞に、呆れたようにマコは言った。
「ん??あれじゃあなんで追い出すんだ??」
「追い出すってなんだ??」
「え、あー、気分。」
追い出すとか追い出さないとかっていう単語に、俺も首を捻ると、あからさまに言葉に詰まってしどろもどろになるマコが、俺から離れる。
「私と、チョッパーとウソップが、早く島を出ろって脅されたのよ。」
ロビンちゃんがそう言ったのを聞いて、マコはビクリと肩を震わせると、俺から目を逸らして後ずさる。
「あ、」
それから、後ずさり過ぎて倒れたままだったブルックにつまづき、尻餅をつく。
「何やってんだお前。」
なんか言われちゃまずいんだろう雰囲気満更のマコに手を差し延べ、立たせると、急にマコがふらついた。
「おわ!?」
「あ??」
抱き留めると、マコは頭を押さえて、
「なんかクラクラする……、」
と、言った。
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