6杯目 彼は今、わたしの隣を歩いている。 何かを話すわけでもなく、吐いた白い息をただ見つめていた。 彼の名前は健というらしい。ちなみに苗字は忘れた。 あまりにも「健」っていう名前が彼にぴったりだったから、そっちの印象しかない。 まぁ、とりあえず何で一緒に帰っているのかと言うと、健くんが思わずドキッとしてしまうようなあの笑顔で 「一緒に帰りませんか?」 て言ってきたからである。 イケメンは嫌いだと思っていたけど、実は嫌いじゃなかったみたい。 だって、これが怖い兄ちゃんとかだったら絶対逃げ出してたし……それは誰でも逃げ出すか。 とりあえず、笑顔が悪い人じゃなさそうだし、頷いて一緒に帰ってる。 「ごめん。俺といても楽しくないよね」 その声に横を向けば、健くんは眉を下げて笑った。 か、可愛いっ。 「そーでもない。落ち着くし。……それ、西高の制服だよね」 ちょっと赤くなった顔を誤魔化すようにして俯いて、さり気なく話題提供をしてみる。 健くんが来てるのは、頭が良いと有名な西高の制服。 女子は正統派セーラーで、男子が学ランで羨ましいんだよね。 「よくわかったね。菜摘ちゃんは清蘭か」 健くんは、たったそれだけの事なのにスッゴく嬉しそうに笑ってた。 思わずキュンときてしまった。こんちくしょー!! 清蘭は進学校で頭はまあまあ。西高の方が頭良いし。 ブレザーだし……。 でも、わたしのこの話題提供はナイストスだったらしく、その後駅まで話しが途切れる事はなかった。 back |