5杯目




彼はその言葉にまた笑って、


「じゃあ、カフェオレください」


とまたまた決まって言う。


もう何回もこのやり取りをしてるんだから、いい加減この店でミルクティーを飲もうとするのは諦めて欲しい。


だって、ここコーヒー専門店だもん。


カフェオレを手渡すと、彼は嬉しそうに笑って席を取りに行った。


思わずその笑顔にドキッとしたのは内緒……。


いつも通り、彼は閉店まで勉強していた。


出て行くのを見送って、わたしは学校の制服姿に着替えて帰る。


それがバイトの日のいつもの日課だった。


……だったんだけど。


「あれ?」


最初に気付いたのはユーリさんだった。


バイトの後、ユーリさんとはいつも駅まで一緒に歩いて帰る。


店から出たあと、チラッと店の表を見たユーリさんが呟いた。


「あそこにいるのって、例の彼じゃない?」


「えっ!?」


つられてユーリさんの視線の先を見れば、寒そうにズボンのポケットに手を突っ込んで立っている彼の姿が。


「菜摘の事待ってるんじゃないの?」


ニヤニヤ笑いながらユーリさんが肘でつついてくる。


いやー、そんな事はないでしょ。


「違いますよ。ほら、早く帰りましょ」


「うん。あたしは1人で帰るから、菜摘は例の彼と帰りな。……ね?」


な、なんだろう。最後の「ね?」の異常なまでの威圧感は。


わたしは引きつった表情を浮かべ、脱兎の如く去っていくユーリさんを唖然と眺めるしかなかった。


おのれユーリめっ!


ユーリさんに対して、消化不良な苛立ちを持て余してブツブツ文句を言ってた時、後ろから声をかけられた。


「あの……」


「はいっ!?」


ギッと睨み付けながら振り返れば、驚いた顔をした彼の姿があった。


……さいあく






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