月刊グランドファッションは超人気雑誌だ。その雑誌の表紙を飾るのは人気モデルの【ディー】
彼は一介のモデルでありながらも、CMや有名ブランドのイメージボーイの仕事もを熟す有名人でもある。
彼の最大の特徴は左目の下にある大きな傷だ。普通は顔に傷のあるモデルなど売れないし、何より商品として成立しない。
だが、彼の場合は別だった。幼い顔立ちに不釣り合いな傷のアンバランスさが、えもいわれぬ色気を醸しだしていた。無惨に頬の上を走る傷跡さえも彼の魅力を倍増させるエッセンスになっているのだった。
………本人に自覚はないが。
そんな【ディー】はまだ17歳。私立アラバスタ高校に通う二年生だ。
彼の一日はまず高校へ行き、殆どの場合はそのまま放課後まで学校で過ごし、マネージャーが迎えに来るまで教室で仲間達と戯れ、仕事へ向かう。その繰り返しだ。
そして、また【ディー】の、モンキー・【D】・ルフィの今朝もいつもと同じ一日が始まる。
***
「っだぁぁあああああ!!!」
もの凄い叫びをあげながら廊下をひた走るルフィ。それもそのはず、今週はすでに二回も遅刻しているのだ。三回遅刻したら欠席扱いと罰則掃除が待っている。ただでさえモデルの仕事で出席日数がギリギリのルフィにとっては死活問題だ。
教室の引き戸を思い切り引いて中へ滑り込む。
「セーフ!?」
中へ入ると同時に叫ぶ。それに答えるようにウソップの声が飛んできた。
「おー!良かったなぁ、ルフィ!まだスモーカーのやつ来てないぞ!!」
「はっ、はぁ、本当かー!ふぁ、良かったー!!」
もたれているドアへずるずるとへたりこみ乱れた息を整えていると、不意にそのドアが横に引かれた。
「ぬぉっ!!」
無防備に寄り掛かっていたので重力の法則に従ってころんと転がる。
「あ?」
「あ、ゾロ!おはよー!」
ドアを引いた人物、ゾロにルフィは床に倒れた状態のままで挨拶をする。
「なにやってんだ、お前」
ゾロは挨拶を返すこともせずに床に転がっているルフィの腕を掴んで起き上がらせた。
「おー、ありがと!」
「おら、鞄くらいちゃんと持てよ」
「ゾロー、お前余裕だな。ルフィと同じで次で罰則掃除だろ?」
「あー?そうだったか?」
ウソップのからかいと呆れの含まれた言葉を軽く聞き流しながら自分の席に着く。
ルフィも窓際の席に座るとウソップが手に持っている雑誌が目に留まる。
「あれ?今月のグランドファッションじゃん!もう買ったのか?」
「当たり前だろー!俺様を誰だと思ってる!世のファッションリーダー・ウソップ様だぞ!!?」
「すげぇな!発売日今日なのに!!」
「まあな〜!!早起きしてコンビニで買ってきたんだ!……しっかし、見れば見るほどルフィだとは思えねぇ……」
そう呟くとウソップは表紙のルフィと目の前にいるルフィをまじまじと見比べる。
表紙のルフィは何処か挑発的な瞳で蠱惑的に微笑んでいるが、実物のルフィは悪意や他意なんか持っていない、そんな顔で満面の笑みを浮かべている。
「俺はときどき思うよ。ルフィと【ディー】は別人じゃないかって」
「何でだ?」
「表情が違い過ぎるんだよ!普段と!!」
「んー?そうかー?」
ルフィが首を傾げているとガラッと教室の引き戸が開く。
「いつまで騒いでいやがる!!さっさと席につけ!!」
担任のスモーカーが教室に入ってくると同時にすべての会話が終わりを告げ、水を打ったように静かになる。
こうしてルフィの一日は始まった。