赤いモクモク
今、僕は大賢者さんと映画館に来ている。
ふてくされた表情を浮かべ、服の袖で涙を拭う僕の隣にかがんで頭を撫でてくれた。
「ごめんなさいね、まさか泣くほど怖がるだなんて思わなくて……」
落とした綿あめは、さっきまで降っていた雨が残した水分に食べられてしまった。
*
それは二時間半前のことです。
「ねえねえ、大賢者さん。僕、映画を見たいな。」
旅人の街の片隅にある、小さな映画館の前でホラー映画の看板をかかげていたんだ。
その赤さがとても魅力的で、見た瞬間に惚れてしまった。
「ん?これR-15+ですよ?たぶん、とてもグロテスクですよ」
「大丈夫ですよ、顔を引きちぎって怪物に貼り付けた仲じゃないですか。」
「そうですけど言い方が……ふふふ、見に行きましょうか」
大賢者さんはツボに入ったらしく、ニヤニヤしながら震えていました。
「大賢者さん!見て!綿あめ無料サービスですって!」
「ぷ、ぷくくく!」
「そんなに笑わなくても……。」
僕は大賢者さんをほっといて、赤い綿あめを2つ貰ってきました。
「トマト味の綿あめですって、大賢者さん。」
「おや、夏ですね。ありがとうございます。ふふ……」
大賢者さんはいつのまにかチケットを買っていて、
晴れてホラー映画「赤いモクモク」を見ることになった僕たちは、
喜び勇んで席に着きました。
今回見たのは、短編映画をいくつかあつめたオムニバス形式の映画でした。
いくつかの映画を眺めましたが、主題の「赤いモクモク」は特に怖かった……。
『ほら、モクモク。大好きなトマトだよ』
主人公の大富豪の娘の手からトマトを受け取り、しゃりしゃりと食べる小さなモクモク。
赤く染まっていくモクモクは、娘が手を洗いに行っている間に絵の具も食べ始めました。
『こら、モクモク!それは食べ物じゃないよ!』
「ごくり……」
僕は手元の綿菓子をチラリと見ました。赤いモクモク……!
冗談が過ぎるコラボアイテムにゾッとしました。
物語の終盤、怪我をした娘の上で、真っ赤に膨れ上がったモクモク。
悲しそうに娘を見下ろすと、静かに真っ赤な雨を降らせながら消えてしまいました。
ジジジジ、とセミが歌う中、暑さとほの暗さを感じる夕焼けの中、エンドクレジットが流れて物語は終わりました。
「ふむ、芸術系のホラー映画ですか。いいですね」
大賢者さんさんは余裕の表情を浮かべて、赤い綿あめを食べきっていました。
「……おや。呪いの子、どうしましたか」
「……。」
涙を流す僕の手を取って、大賢者さんはロビーまで僕を連れて行きました。
ふてくされた表情を浮かべ、服の袖で涙を拭う僕の隣にかがんで頭を撫でてくれました。
「ごめんなさいね、まさか泣くほど怖がるだなんて思わなくて……」
我慢できなくなった僕は、せきを切ったかのように涙があふれさせました。
「いえ……ぐすん、僕が、映画を見たいって、言いだしたので……。」
「我慢しなくてもよかったんですよ?」
僕のことを抱き寄せた大賢者さんさんは、今日は特別に優しかったです。
「気分転換においしいものでも食べに行きましょうか。ほら、そこにカフェがありますし」
「……抹茶フラペチーノ…………」
「一緒に食べましょうね!」
ふわりと落としてしまった綿あめは、さっきまで降っていた雨が残した水分に食べられてしまいました。
赤いはずの綿あめは、陽炎のように消えてしまいました。
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