キャラメルポップコーン

そこにあるのは小さな映画館で、最初はキャラメルポップコーンの甘い香りに釣られてしまったところからわたしの失態ははじまりました。

「呪いの子、キャラメルポップコーンは好きですか?」

わたしは"いかにも気を遣ってやっている"といった、見栄を張ってしまいました。
本当は自分がポップコーンを食べたいだけなのに。
呪いの子は少し戸惑いながらも、微笑んで、

「僕、映画を観たいな」

とわたしの手を引いて映画館のほうへぐいぐい引っ張っていきました。



結局、大きなバケツサイズのポップコーンを抱えて、真ん中の席に座りました。

「ポップコーン、僕も食べていいですか?」
「……ああ?いいよいいよ!好きなだけ召し上がってください。」

まだほんのりと暖かい茶色の塊に緊張しながら、ひとつまみを口に放り込みました。焦げた砂糖とクリームの香ばしさとサクサクとした軽い歯当たりの魅惑の塊に夢中で、正直ちゃんと映画を観ていませんでした。

「ひい……!」

呪いの子が小さく悲鳴を上げ、身体を強張らせました。わたしの手を握ろうとしたのでしょうか、間違えてポップコーンのバケツをひっくり返してしまいました。(半分以上わたしが食べたため中身がはほとんどありませんでしたが)

「あ……!ごめんなさい!」
「大丈夫大丈夫!あとで箒を借りましょうね……ぎゃー!」

ふと画面に目をやると、「預言を実行せよ」と画面いっぱいに書かれた沢山の赤い文字にびっくりして、大声を上げてしまいました。

「大賢者さん、怖いの…?手を握っててあげようか?」
「こ、こここわくないですよ!」
「そっか……」

ニヤニヤと笑う呪いの子。
わたしも呪いの子も見栄を張り、緊張気味の笑顔を浮かべながら映画を観ていましたが、いつの間にか繋いだ手からは恐怖を感じることができました。こわばる手のひらは少し冷えて、震えていました。



「ああ、怖かった!」
「並んだ額縁の中に顔を飾っているシーン、とても怖かったですね……」
「実際はもっとすごいことをしていたのにね……」

明るくなった映画館のロビーで、箒を借りるために立ち寄ったスナック売り場で、何故かチュロスを2本貰ったので呪いの子に渡しました。

「あれ?掃除は?」
「スタッフにお任せください、と言ってましたよ。ポップコーンは売り切れだからと代わりにこれを頂きました」
「ありがとう、大賢者さん。」

呪いの子はもそもそとチュロスを食み、わたしのローブの裾を掴みました。

「もう夜だね、大賢者さん。」
「……宿屋に行きますか」

旅人の街まで徒歩1時間、映画の感想で盛り上がるには足りないくらいでした。


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