痛みを伴う契り

わたしたちは、まるで初めてデートをした恋人たちのように胸の高鳴りを感じていました。
目を合わせると頬を赤らめてそっぽを向く呪いの子。
わたしは静かにオールを漕ぐしかありませんでした。

蓮の花がまるで黄泉を再現しているかのように色づき、クリスマスローズが風に揺れていました。
まるで、わたしたちを見て笑っているかのようにも感じます。

キイ、キイ、と音を立てて動くボート。
気が付けば池の深いところまで来てしまっていました。

「わあ……!」

感嘆の声を上げる呪いの子。
今度は初めて家の外に出た子犬のように目を輝かせています。

「見て、大賢者さん!綺麗なお花!」
「本当に綺麗ですね!」

わたしはオールを動かすことをやめて、呪いの子と同じ方向を眺めました。
蓮の花が空に向かって咲いています。
鮮やかなピンク色はわたしたちの頬の色を誇大して嘲笑っているかのようです。

「あのね、」

呪いの子が肩掛けカバンの中をまさぐります。
取り出したのは白い缶。

「おや、ドロップですか?」
「はい。白いお花の飴って珍しいなと思って……一緒に食べない?大賢者さん」
「では、ひとついただきますね」

呪いの子が差し出した飴は白桃味のドロップで、ふわりとやさしい味と甘さが桃のまろみと口の中でしとやかに溶けていきました。

「まさかヨモツヘグイじゃないでしょうね?」

わたしはドヤ顔で言いましたが、呪いの子はポカンとしていました。

「よも……何?」
「遠くの国の言い伝えで、あの世の釜で炊いたものを食べると、現世に戻ってこれなくなることをそう言います」
「えー?!」
「そのくらいおいしいってことが言いたかったんです。ありがとう、呪いの子」

もう!と頬を膨らませる呪いの子。でも、すぐに笑みに代わりました。

「あのね、これ……」

呪いの子は小さな箱を取り出し、わたしの手の上にのせました。

「何ですか?」
「開けてみて!」

箱にかかった細い紐を解いて、箱を開けたら銀の指輪が入っていました。

「おー!でもこれ、サイズが合いませんね」
「えー……」

残念そうに俯く呪いの子。
わたしは細い紐を指輪に通し、自分の首の後ろで結いました。

「これでいつも身に着けられますね」
「でも紐が麻で痛いんじゃ……?」
「大賢者さんたるもの、このくらい痛くありませんよ。……さて、帰りますか」

嬉しくて次の言葉が出てこなかったのですが、無言なのも気まずいので鼻歌を歌いながらオールを漕ぎました。

「あの!大賢者さん!」

呪いの子が珍しく大声でわたしの名前を呼びました。

「なんでしょう?」
「だいすき!!!」
「わたしもです。大事な相棒ですものね」
「えー!じゃあなんで目を合わせてくれないの?!」
「それは……」

わたしはなんとなく、弱みを握られてしまった気がしました。

#2021.5.24 - 23:50


[ 16/19 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

白昼夢がお送りします。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -