皿の上の花
大賢者さんと僕は、旅人の街のカフェに居ました。落ち着いた木目調の空間からは、コーヒー豆の香ばしい香りと落ち着いた音楽が漂っています。
「呪いの子は何を食べたいですか?」
「僕は…」
僕は写真付きのメニューを指差して、「これがいいです。」と微笑んだ。
「ホットアップルパイ、ですか」
大賢者さんは微笑み返して、店員さんに注文をしました。
「アップルパイ2つをお願いします」
「お飲み物は?」
「わたしはハーブティーにします。呪いの子は?」
「カフェ・オ・レを頂けますか」
「かしこまりました」
「……楽しみですね!」
店員さんがカフェの奥に入っていくと、大賢者さんさんがそっと僕に耳打ちをしました。
「実はわたし、ずっと甘いものが食べたかったんですよ」
「大賢者さんが?」
「はい。あなたと旅を始めてから、好きなものが食べられて嬉しいです」
「意外……!」
「一人旅の時はミックスナッツとかサソリの黒焼きとか食べてましたね」
「体調維持のためですか?」
「いえ、イメージ維持のためです」
「イメージ?!」
驚いている僕をよそ目に、店員さんがアップルパイをカウンターに置きました。
暖かいアップルパイからは、リンゴとシナモンの甘い香りがしました。
添えられたアイスクリームが溶けかかっています。
薄切りのリンゴがフチから中心に向けて飾られていて、まるで花のようです。
「わあ……!」
まるで高嶺の花をみつけた子供のように、2人で目を輝かせている僕たち。
「早速頂きましょう!」
「はい!」
フォークをアップルパイに突き立てると、サク、と小さく音を立ててパイ生地が割れました。
溢れ出たカスタードクリームからはバニラエッセンスと卵の甘い香りがします。
それらに崩れたリンゴと、ひと掬いのアイスクリームをのせて、口に入れれば幸せを感じました。
甘い。パイの甘酸っぱさとアイスクリームのまろやかさが幸せな味を演じています。
「大賢者さん、おいしいね!」
「おいしいですね。あなたとカフェに来られて幸せです」
「僕も!」
ささやかな幸せを味わう僕たち。
この瞬間のまま時が止まってほしいと思った。
#2021.5.24 - 18:00-002
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