mad-dream

モノクロスカイ/2 mad-dream

タロの日記。

その日は悪い夢を見た。
何が悲しいのか、成人男性相手に援助交際をする夢。
昼は遊園地で羽振りのよい男に金を出させて遊び、夜は更に未成年の僕が日記にかけないようなことをした。
そんな夢。その男といるととても幸せだった。
何度も口では言えない行為を繰り返し、泣いて再会を乞う僕は惨めでしかなかった。
もちろん、現実ではそういった行為を女子相手でもした事なんて無かったのだが…


目覚めたときは深夜。外を見れば暗闇に大粒の雨がたたきつけられていた。
僕は指先と脚の先が冷えてしまっていて感覚がおかしい。
…今も夢なのか現実なのかわからない。
何か飲んで落ちつこうと思ったが、冷たいものを飲んだところで不安が増すばかりなので、
ミルクセーキが飲みたくなった僕は部屋を出た。

部屋を出てもなんの音もしない、暗い廊下が続くばかり。
ふらふらと自動販売機を求めて歩く僕…

どん。

何かにぶつかって、呻き声。

思わず「ごめんなさい」と泣きそうな声で言ってしまって、直後に情けないと思った。
前を見ると、黒服の男。
「いや、謝ることは無いです、黒服でつったってた私も悪いんです。」
低い声でそう言うと足早に去っていった。…残念だが、その方向は僕も行くのだが。


結局二人で缶コーヒーを飲んで、寒い渡り廊下で話をしていた。
雨は結局止んで、夜霧がかかっていた。

黒服の男、セイ、やることなすこと過激極まりない。
しかし誰に対しても丁寧な態度で話す。僕すらも例外ではない。
おまけに趣味が合う。が、やることはこいつには勝てない。何も。
態度だけの僕とは正反対の男だ。

「何故、セイはこんな夜遅くに出歩いていたんだ?」
そう問う僕。
「ああ、雨の日はたまに悪い夢を見るので…見ませんか?」
低い声で言うセイは慣れている風に言ったが、セイほどのハードコア…いや、硬派でも悪夢は見るんだな、
とかなんかよく考えれば当たり前のことを思っていた僕。それを横目にセイは続ける。
「なんででしょうかねぇ…見るんですよ、悪夢。
理由はわかりませんが、たまに虐められる夢を。そのとき私は何故か雑種の猫なんです。」

淡々と普段の低い声で言うが、やはり内容がヤバイ。
親友のキーもそうだが、芸術科目で奨励金を貰うほどの人間はどこか微妙におかしい。


「ところで、タロ君こそ何故こんな時間に?」
「まぁ、似たような理由だよ。睡眠薬は捨てるものじゃないね。」
「へー…どのような夢を?」
「学校の倫理規定に…」

反しますよ、と僕は言いかけたが、たかが夢、さっさと答えてしまう事にした。
誠吾も掟破りで答えてくれたのに言わないのもなんか悪い気もするし。

「…えーと。援助交際。喪男の僕だけど、買われてた。」
「へーw そ、それはまたトんでますね。」

…やっぱ、笑われた。いつもの不自然な空笑い。
おまけに引きつり笑いもプレゼントされたこっちはぜんぜん笑えない。

「まぁ夢なんて脳のメンテナンスしてるだけなんで気にすることないですよ。
それよりも…寂しいんですか?どうせなら恋人さんの部屋にでも行ってみてはどうでしょう?」
「寂しくはな…っこ、恋人?!」

セイは笑って言ったが…もっと笑えないよ、セイ君!!
ってかどこでそんな悪い冗談を耳にしたのか尋ねてみたら、案の定アヤ経路だった。
お前ら風紀委員なのに何やってんだ…とは言わないが僕はアヤを恨む。


「寒い雨の日は誰だって寂しくなりますよ。
特にキミの親友は一人であんな広い部屋に一人暮しなんだ、見に行ってやるのも悪くはない、と。」

そう話すセイの指先には技術科目を得意とする生徒のための大きな寮があった。
とりあえず、飲みたかったミルクセーキを二本持って、早めのモーニングコールをしに僕は立ち去った。



呼び鈴を押す。いつもよりも音が大きく感じられる。
外はまだ暗い。キーはまだ寝てるだろうと思ったが、二本も飲めないので暫く待つつもりで来た。

がちゃ。

意外な事にすぐドアが開いた。
キーは何故か縫い包みを抱えて、不安そうにこちらを見上げる。
どこか様子がおかしい。
いつものエプロンをつけているわけでもないので、徹夜作業じゃなさそうだ。

「…タロ?」

泣きそうな声で僕の名を呼ぶ。人形を持った手はがくがくと震えている。

「ど、どうしたんだキー。…あ、ミルクセーキを買ったんだけど冷めちゃうから、」

そう言いかけたところで、強引に僕の手を引いて部屋に連れられた。

「バカ。バカ!さみしかったんだよ!…なんで来なかったの?」

突如、そう泣き叫ぶキー。僕の居ない間に事が運んでいたのか?
いつ、僕らはバカップルになったんだ?そう思って混乱した。

「ちょ、ちょっと、キー。落ちついて。これ飲んで話そうよ、ね?」

缶を開封して無理やり手渡す。便乗して、空いた手で頭をそっと撫でてやった。
キーは涙を流しながら、小声で「いただきます」とミルクセーキを飲み始めた。
飲めば飲むほど涙が流れていく。
見ていて少し可哀想になってきたので、耐えられない僕はTVをつけてみた。
…映ったのはクリーナーの通販。ムカっとした僕は更にチャンネルを回す。
回ってきたのはクラシック音楽と天気予報。今日も曇りのようだ。

僕らは、そのまま中途半端な色の空と、天気予報をボーっと見ていた。
話すこともなく、ただ、見ていた。
空は白、雲はグレーとパステルカラー。


空が明るくなったころ、キーはようやく落ち着きを取り戻した。

「キーね、とっても怖い夢を見たの、怖かった。タロが知らない男の人にどっかもってかれちゃうの。
怖かった…笑って行っちゃうんだもん。ねぇタロ、そんなことしないよね?」

なんと。キーも悪夢を見ていたとは。しかも同じ内容の。
心を見透かされたような、ちょっとびっくりした気分になった。

「ああ、しないよ。こんなバカ、だれも要らないだろうし。」
「バカじゃないよ…だって、キーはスキだもん。」
「…で。いつから僕らはバカップルになったんだ?」

「カップルよりも、もっと大事な関係、でしょ?」

キー、少し笑った。僕もちょっと笑っておいた。
どこにも行けない僕をこんなにも好いてくれるのはキーだけだ。




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