ノボリの本当にぽかん、とした顔を見たのきっとあれが最初で最後」
僕はいつもどおりの変わらないこの顔で、ノボリの少し伸びた髪を、工作用の赤いもち手のはさみでざきりと切り落としたのだ。
水色のスモッグにぱらぱらと落ちる髪。一拍おいて泣き出すノボリ。
その後カミツレにがっつりと怒られた記憶があるようなないような。
そのへんはよく覚えてない。
そのときの僕はきっとノボリとだんだん見た目が違っていくのが、不思議で、納得いかなくて、そんなことしたんだと思う。
「本当お互いばかだよねぇ」
僕はもうあの時の僕とは違って諦めているのに、ノボリはかたくなに髪を伸ばそうとはしない。
ノボリだけ膨らんでいく胸だとか、違っていく肩幅や声だとか、どうしようもないのに。
いっそノボリが男ならば話は簡単だったかもね