彼が禁煙を始めたのは、十五年前。
あのヘビースモーカーが禁煙だなんて何日もつんでしょうと最初は笑っていた。
でも予想に反して、十五年だ。子供ができたとはいえよく我慢したものだ。
でも自分は彼のその紫煙のにおいも嫌いではなかった。
「……私は普段そこまで煙草吸わないんですけどね。」
まぁ、自分は悪魔だからそんなニコチンなんかの後遺症なんかもないわけであって。
彼がよく吸っていた銘柄をふところから取り出す。
一本咥え自分の指先から火を出し点火する。雨に消えないように。
立ち上る紫煙は彼と同じにおいがした。
「…………もう、あなたも一本くらい吸ってもいいでしょう。」
体が無いのだから。
彼の名が刻まれた墓に、今開けた煙草の箱を置いた。
自分の吸殻は、さすがに置いていけないけれど。
彼がいたらきっと横からかっさらって行くんだろう、私はそれを抗議しつつも、本当に嫌がってはいないのだろう、なんて。
お前の亡骸 私の吸殻----------------------------------
hakuseiさま:「お前の亡骸 私の吸殻」より。
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