手を汚さずとも

「神父さん!」

自分を見つけた瞬間にわかに笑顔になった少女に、少しだけ綺礼も口元を緩ませる

「お久しぶりです」

あぁ、とただそれだけの簡潔な返事にも少女は嬉しそうである。

「神父さん、これ作ったのでもしよければ、」

かわいらしくラッピングされた薄い桃色の包みを受け取る綺礼

「これは?」

「パウンドケーキなんですけど、甘いもの大丈夫ですか?」

甘さは控えめなんですけど、一応。そう言って少女はうつむいた。

「いや、ありがたくいただく」

ぱっ、と顔が明るくなった少女を見て単純なものだと綺礼は半ば呆れる

「それじゃ、神父さん私これから図書館に行きますね、お時間取らせてしまってすみませんでした」

ぺこりと頭を下げ走り去って行った少女を見届けると綺礼はにやりと笑った。

確か図書館は少女の意中の少年とその恋人がいつも逢瀬を重ねているところである。

もし鉢合わせしたら、少女は自分に泣きついてくるだろうか。

(己が何もせずとも結局は、そうして勝手に事が運ぶものなのだ)

包みをがさりと開けてパウンドケーキをほおばる。

「甘ったるい」

手を汚さずとも



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