臆病を孕む
別にランスロットは仏教を信じてはいなかったが、こうして転生を経験し、彼に正気の状態で対面していることに関してだけは、神と呼ばれるものの作為を感じずにはおれなかった。
黒髪の彼を見たことがなかったので、最初は気がつかなかった。けれどすぐに思い当たった。
カリヤ、と呼びかけようとしてランスロットは言葉に詰まった。
(彼に、何を言いたいんだ)
幸せそうな彼の横顔が見え、ランスロットは彼を追いかけようとした足を止めた。
(それに、彼が以前の記憶を持っているとは限らない)
人ごみに流されかける直前、振り向いたカリヤと目が合った。
「バーサーカー」
確かに彼の口がそう動いたのを見て、ランスロットは反射的に駆け出していた。
(あぁそうだ、まずは、まずはきちんと名を名乗ろう。)
臆病を孕む
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