何食わぬ顔をして毒を吐く
私がヒールを履いてホテルの部屋を出ようとすると、彼は煙草を灰皿にぎゅうと押し付け、もう行っちゃうのと子供みたいな声で聞いた
「早く帰って着替えたいんですよ」
「じゃあ着替えたあとまた、ギアステーションに来てくれる?」
君がいるってだけで楽しく思えるんだよねぇと彼が言ったので、私がいなければつまらないんですか、と皮肉を投げてみた。
「うん、つまらないよ」
あまりにもあっさりとそういわれ、私は反論する隙間を失う。
そのまま一言もしゃべれずに彼がばいばいと振る手に見送られ、私はホテルを後にした。
何食わぬ顔をして毒を吐く
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