逆再生のか細い声
「本当にアナタサマはノボリのことが好きなのですね」
彼女は私の言葉に含まれた僻みに気がつかずに、もちろんですと笑いました。
彼女に寄り添われているノボリは、何も言えずにただ赤い顔を伏せていました。
(まったくもってお似合いですね)
この場の邪魔者はどうしたって自分であるのでした。
「もうそのあたりで勘弁してくださいまし」
ノボリがのろけ続ける彼女を止めようとしたとき、ころころとシャンデラが入ったボール(もちろん彼のものです)が線路の方へ転がってゆきました
ホームからあわや落ちるか落ちないかのところでノボリはボールを拾い上げました。
しかしその拍子に彼は大きくバランスを崩し、ホームへ転落しました。
彼女の悲鳴をかき消すように彼の上を列車が、スピードを緩めず通過してゆきました
へたりこんだ彼女の、その顔を見てワタクシはうかつにも願ってしまったのです。
(もし、時間を戻せたら、)
キュル、とカセットテープが撒き戻るような音が聞こえました。
逆再生のか細い声
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