命無き勝者

舞台裏に続く廊下を一般人がうろうろしていると思ったら、案の定奴だった。アタシは無言でその背中を蹴り飛ばす。うぉっ、と間抜けな声を出しながら奴は前のめりに倒れた。
「何の用」

「いやホミカさんに、ライブ今日もお疲れ様、を言おうと」

苦笑したような声で奴は言う。怒った様子は微塵もない。

腹いせに、膝裏に足を乗せぐりぐりと動かす。

「痛い痛い」

「うるさい」

決め手に背中にのっさりと座る。

「ホミカさんお尻が腰に当たっているんですが」

「座ってるから当たり前でしょ。」

「駄目ですよう男にこんなことしちゃあ」

じゃあなんで怒らないの、とアタシが訊けば怒って欲しいんですか、と奴は言う。

「怒りませんよ、こんなことじゃあ」

アタシが無言で背中から降りると奴は腰をさすりながら立ち上がった。

「ばか、ほんとばか」

「よく言われます」

ぽんぽんと奴はアタシの頭を撫でて踵を返した。

今日は送ってくれないのかよ、アタシの呟きが聞こえたらしく、送って欲しいんですかと奴は呟いた。

「いやね、そんな可愛い顔されちゃ僕の理性が持たないなと」

「上等」

理性を保っているなんてそんなの、死んでいるのと何が違うのとアタシは言った。

命無き勝者



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