喪失が嘘だと思えた日々を
ガラスが割れるようなイメージを抱いていた。音を立てて砕け、あとには破片しか残らない。触れたら身を裂かれるような痛みがある。
(けれど実際は。)
残骸が残ればまだ救いがあった。それすらなかった。
(俺は何を油断していたのだろう。)
彼の赤い瞳はいまや跡形もなくこの世から消えてしまった。
そんな日はこない、と来るはずがない、とどこかで思っていた。
俺たちはあまりに長い時間を生きすぎていた。
(形あるものは、いつか、)
なぜそんな簡単なことを忘れてしまっていたのだろう。
喪失が嘘だと思えた日々を
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