遺伝子の檻

「似ていない兄妹だね、と言われ続けていました」

彼女はそう静かに言葉をつないだ。まっすぐに切りそろえられた髪が、彼女が顔を伏せるに合わせてぱらり、と落ちた。

「私と兄は、本当の兄弟でないのではないか、と疑問を持ったのはもう何年も前にあるでしょうか」

父も母も早くに亡くなり、それを証明する手立てはなくなりました。いいえ、ないわけじゃあないのです。科学の進んだ昨今です。手段はいくらでもあるでしょう。毛髪、唾液、爪、かさぶた。私は詳しくはないのですがきっと、人が無碍にしているそんなものはさぞ雄弁に語ってくれるのでしょう。普段私達がいとも簡単に疎ましくなり捨てているそれらが。

けれど私は、血がつながっているか否か、はっきりと知りたくはないのです。
きっとどちらにせよひどく、裏切られたような心持ちになるでしょうから。
兄とは何分、年が離れているものですから兄は少なくとも真相をわかっているのでしょう。
ならば、私はそれでいいのです。

彼女は、笑っていた。私は彼女に言う。

「お兄さんと、よく似ていらっしゃる。」



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