幸福を与えては求めず
ふう、と彼女は紫煙を吐き出した。
「肺が真っ黒になるよ」
うるせぇ、と彼女は俺の額をはじく。虐待反対!と俺が言うともう一度同じことをされた。煙草のにおいが俺につきまとう。けれど別に嫌じゃない。
「あんた抵抗しないけどさぁ、人気高校生モデルが煙草のにおいくっつけて仕事に行っていいわけ?」
「そんなヘマ俺がするわけないじゃないスか」
彼女は盛大に顔をしかめる。かわいくねぇの!とせっかくセットした髪をかき混ぜられる。台無しだ。そう俺が言うと彼女は知るかと煙草をかみつぶした。
そう彼女は知っている。彼女に乱暴にそうやって頭をなでられるためにちゃんとこうして髪をセットして会っていることを。
それに、好きな人にはやっぱり一番かっこいい姿を見てほしいもんじゃないか
幸福を与えては求めず
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