屍肉に絶望が咲く
背中に衝撃を感じたと思ったら、凛が背中を突き飛ばしたときのそれだったようで、してやったりという風に笑っていた。
桜が葵の横で心配そうに自分を見ていたので、大丈夫だよと手を振ってやる。
それから凛を、レディがはしたないよとたしなめた。
膨れる凛の手にはいつの間にか花冠が乗っていて、お父様にプレゼントだと言って彼女はそれを差し出す。私はそれを恭しく受け取った
「桜はね、雁夜おじさんにあげるんだって。まだ来ないのかしら」
「あいつは時間に疎いからなぁ、もうすぐ来ると思うよ」
お父様はおじさんの事になるとそうやって男の子みたいな言葉遣いをするのね、と凛が笑う。
以前妻にも言われたので反論できない。
「あ、あぁほら来たみたいだよ」
うまいタイミングで、雁夜がこちらに向かって手を振っていた。彼の黒い短髪が風にそよいでいる。凛が手を振り返した。しかし、雁夜の後ろにいる男は、
「綺礼」
反射的に私はその名を呼んだ。すると世界は暗転し、自分は暗闇の中で一人きりになった。
背中に違和感があると思ったら、自分が彼に贈った短剣が突き刺さっていた。
裏切られた、と実感できたのは今この瞬間である
屍肉に絶望が咲く
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