急ききる両足の後ろめたさ

急いでいるから、なんて。もっと他に言葉はあったろう。
彼女の姿が視界から消えても、彼女の気配が感じられなくなっても、俺は足を緩めなかった。

(もっと、気の利いた言葉があったはずだ)
たとえば、と後輩の一人を思い浮かべる。
女子慣れしているあいつならばきっと、きざったらしいものの少なくとも彼女を傷つけない言い回しが十も二十も、それこそ売るほど思いつくのだろう。
頼むからひとつ売ってくれ。いまさら買っても遅いけれど。

「先輩」
頭の中に浮かべたその後輩が勝手に口を開いた。
「俺だって、本当に大切な女の子にかける言葉、そうそう思いつかないッス」
うるせぇ、と反射的に声を上げそうになって、あわててがさついた唇をはり合わせた。

急ききる両足の後ろめたさ




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