独りが恋しくなる
ズゴッ。と濁った下品な音を立てて私はイチゴ牛乳を飲み干した。はしたないと思われるかもしれないけれどとにかくそんな気分だったのだ。
むしろこのくらいで幻滅でもしてくれたら儲けものである。
けれどきっと彼はあきらめない。イチゴ牛乳の赤は虫の赤だとしっても私が変わらずに飲み続けているそれときっと理屈は同じなのだろう。あぁくそ。厄介だ。
私はちらり、と廊下のほうを見てしまう。見てしまう。そうだついうっかり見てしまったのだ。教室のドアが開いていて、ちょうど彼が、通りかかった。うげ。
手元の紙パックをうっかり私は握りつぶす。一個下の学年の教室に臆面もなく入ってこられるなんて悪い意味でこの人空気読めない。
「やぁ、」
さわやかな声と微笑み。周りからひそひそとあがる黄色い歓声。
そんな人気者に好かれる優越感なんてものはしかし、毛ほども感じられない。
どうせ昼休みが終わって彼が退散した後質問攻めにされるのだ。やめろ放っておいてくれ。
ちょいちょい、と彼が自分で自分の眉間をつつく。
「は?」
「皺、よってる。かわいい顔が台無し」
イチゴ牛乳の紙パックはもうほとんど原型をとどめていやしない。
独りが恋しくなる
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