私が私を殺した日のこと
たとえば今までずっと、贈られるままに喜んでつけていた香水だとか、ブルーブラックのインクで書かれた甘い言葉の一文字一文字だとか。
(まぁよく燃えること)
私は黙ってまばたきせずにぱちぱちと赤く爆ぜるそれらを見つめていた。
煙は天につくくらいに立派に立ち上る。まるで七夕かなにかのようだなぁと思うけれど願い事をかけているわけでも、ない。
ざく、と枯れ草を踏む音が聞こえた。振り返ると銀髪をさらりとなびかせた、一応の上司だった。彼の口から白い息が吐かれる。それは煙と濁って混ざる。
「分別しろ、なんて野暮なことを言うつもりじゃないでしょうね」
彼は、別に何もいうつもりはねぇよ、だなんて軽くホールド・アップして見せた。
ねぇ、私は、なぜこちら側を選んだのかしら。けれど少なくともどだい無理だったのだ。
彼とこちらを両方とることは。絶対に、
少女の私が音をたてて燃えていく。さようなら。私は人知れずつぶやいた。
私が私を殺した日のこと
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