せめて、最後くらいは
私は彼にわがままばかり言ってきました。彼はそのひとつひとつを、
困った顔ひとつ見せずに叶えてくださいました。
「これが最後のわがままです。」
私がそういうと彼は、訳がわからないという風に首を傾げました。
私は繋いでいた手を離しました。思い返してみれば手を繋ごうとはじめに言い出したのも私からでした。
「私から幕をひくことを、どうかお許しください。」
私ごときの女があなたのような素敵な男の人を振る、だなんてなんて身分不相応なことでしょうか。しかし、私はこうせずにはいられないのです。
「今までありがとうございました。どうかお体に気をつけて。くれぐれも無理はなさらないようにしてください」
私はにこり、と唇の端を吊り上げ目を細めました。
「それでは、さようなら」
せめて、最後くらいは
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