夜を漂うようにして
真っ黒な濃いコーヒーを私は一口飲み込んだ。喉に熱い感覚が走る。
なんとなしに脳が覚醒したような気がして、けれどまた私はあくびをひとつした。
時計を見るともうとっくに短針と長針は出会ってすれちがった後だった。
明日、私は仕事であるのだけれど、けれど波音を聞きながら、夜の、鏡みたいな海を見ながら夜更かしするという贅沢には抗えない。
それにしてもジムの、というか日頃ジムリーダーのスタンバイしているこの場所が案外穴場だったとは。夜のジム、という非日常間も相まって、とてもじゃないけれど眠るなんて勿体無い。私はまた一口苦いコーヒーをすする。
今の時間、海の中はどうなっているのだろう。波音に足をひたしながら私は見えない世界に想いを馳せる。
足元からふいに水音がして、水面からこの場所の主であるところの彼が顔を出した。彼は言う。
「夜の海もいいもんじゃろ」
私が同意を示すと彼はうれしそうにニカリと笑って床にばらばらと何かを落とした。
月光に照らされたそれは、きれいなうろこと、こだいのどうかだった。
それぞれ違った光の反射をする。塩水に濡れたそれを私はそっと手にとった。
夜を漂うようにして
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