半分の月の下で陽炎が揺らぐ
私は反射的に悲鳴を上げて後ろを振り返ってしまう。すると私の悲鳴に驚いたその手の主も悲鳴を上げた。びくびくとどけた手を胸の辺りで軽くホールドアップしている彼はひげ面で気弱な表情の彼は、
「東峰先輩何やっているのですか」
え、と彼は気まずそうに目線をそらす。
「その、君が一人で歩いていたから、心配で」
「余計なお世話ですよ」
家近いし。しかし彼はなおも食い下がる。
「でもやっぱり君は女の子だから。」
「そういうのが余計なお世話だと言っているのですよ私は」
彼の眉がどんどんと気弱な角度になっていく。私は大仰な溜息をついて見せる。
「でも、まぁ、その、ありがとうございます。」
よろしくお願いします。と私は頭を下げる。彼はうれしそうな顔をして、私はそんな彼のことを本当は、
(絶対言わないけど)
三日月が細く笑って私たちを見下ろしていた。
半分の月の下で陽炎が揺らぐ
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