すべてを葬ったら

中庭からゆっくりと灰色の煙が立ち上っていた。
そういやあいつの国にはそういう習慣があったな、と俺は枯れかけの芝生を踏んで中庭に下りる。

思ったとおりに、この煙を燃しているのは奴だった
洒落た便箋やこの前までつけていた香水の壜がどんどんと炭化していく。
奴が振り向いて、ずいぶんと子供っぽさの残る黒色の瞳で俺をにらみつける。目のふちが赤い。
「分別しろ、だなんて野暮なこというつもりじゃあないでしょうね」
「別に何もいうつもりはねぇよ」
俺は両手を軽くあげてみせる。
「ボスの命令とはいえ、こっちを選んだのはお前だしな」
それにそうそうあるもんじゃない、と俺は思う。だって三文芝居のようだ。
恋人が、敵対しているマフィアのお偉いさんだった、なんて。
ぱちん、と炎がはぜる。炎に照らされた奴の顔からはあどけなさといえるものが消えていた。奴が何事かつぶやく。奴の母国語でも俺の母国語でもない。けれど俺が分かる言葉で奴はたしかにつぶやいた。

「私は今私を燃やしている」
少女であったあいつは、今こうやって死んでいくのだ

すべてを葬ったら



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