嘘に蝕まれたままで

人々の熱気がまだこもっているホームのベンチに一人。アルコールのせいで赤く染まった顔の彼女は私は回収に向かいました。

「タチの悪いお客様の回収も仕事のうちですからね」
自分に言い聞かせるように私はそうつぶやき、彼女に一歩近づきました。
「立てますか?ほら、立ってください、」
ここ数ヶ月のお決まりのパターンを律儀に守るように私は彼女に声をかけ、支えになりました。
軟体動物のようにおぼつかない足取りで彼女はどうにか立ち上がります。
彼女の体から男物の香水のにおいがゆらめきました。彼女は表情を崩しました。

「ねえ車掌さん、私、あなたのこと好きですよ」
「そうですか、出直してください」
またまた、と彼女は品のない笑い声をあげました。うそつきにつける薬と酔っ払いにつける薬はないものかと私は思考します。

嘘に蝕まれたままで




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