残酷な微笑みの裏側で

ただ一度だけ、笑顔でない彼を見たことがある。
終電がいってしまうのを私が呆然と見送っていたときに、向こう岸のホームに彼が一人立っていた。

その彼の表情に、スゥと視線が吸い寄せられた。
彼とはそれなりの顔見知りだった。会えば一言二言言葉を交わすくらいの

なのになぜ、その時すぐ彼に声をかけなかったのか。

彼の顔はいつものように笑ってはいなくて、かわりにぞうっとするほど冷たい光を目にたたえていた。

まるで北国の湖面のようなその瞳を見て、私は凍り付いてしまった。
すると彼がこちらに気がつく。彼はいつものように目を細めて、私に向かって手を振った。

しかし私はそれに応えられずにただ固まるのみだった

残酷な微笑みの裏側で



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