見返りを望みすぎて
「インゴって、釣った魚に餌はやらないタイプでしょう」
彼女はほとんど身一つで、私の家に住み着きました。そして元来荷物を持たない性質だったのか去るときも小さなボストンバッグをひとつ、手に持っていたのみでした。
「私はもっと言葉がほしいの。直接的に愛を囁く言葉でなくて構わないから」
彼女は淡々とそう言い、目を伏せました。
「そうですか、アナタサマがそう言うならきっとそうなのでしょう」
私は煙草の煙と一緒に、そんな言葉を吐き出しました。
さようなら、と彼女は顔を上げ歩き去っていきました。
扉が閉まった後、ワタクシは彼女の置いていった指輪をダストボックスにすてるべくまず、ドアの鍵を閉めました。
見返りを望みすぎて
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