花は手折らず愛でるもの
臆病だと言われればそれだけかもしれない、けれど。
花がしおれてしまうのが、怖かった。
「ねぇ、若松くん、私ね、」
だけれども、
「好きな人ができたの、」
そうして彼女が告げた名前は俺もよく知る、ひとつ上の俺が尊敬しているキャプテンの名前だった。
「それでね、先輩が卒業してしまう前に告白しようと思うの」
(あの先輩には、もう彼女がいることを俺は知っている)
やめておいたほうがいい、だとかそういう言葉を吐こうとして失敗した。
花は、自ら手折られたのだ。
(がんばれ、とは結局言うことができなかった)
花は手折らず愛でるもの
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