血などで染めずとも
彼女の悲鳴なんて私は初めて聞いた。頬をすってしまって頬にガーゼを貼って帰宅したのだ。
「トレーニング中についてしまったんだ」
心配をかけてしまいすまない、と私は彼女の頭を撫でた。
「どこでついたかなんて問題じゃないのよ」
彼女はうっすら涙を浮かべた目で言う。
「あなたはたしかにみんなのヒーロースカイハイなのだけれど、マスクの下は私の恋人のキースなのよ」
それを忘れないで、と彼女は言った。
(こんなに心配してくれる大切な人がいるというのは、もうそれだけで喜ばしいことだ)
彼女を抱き寄せて私は、ありがとうと囁いた。
血などで染めずとも
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