血などで染めずとも

彼女の悲鳴なんて私は初めて聞いた。頬をすってしまって頬にガーゼを貼って帰宅したのだ。

「トレーニング中についてしまったんだ」

心配をかけてしまいすまない、と私は彼女の頭を撫でた。

「どこでついたかなんて問題じゃないのよ」

彼女はうっすら涙を浮かべた目で言う。

「あなたはたしかにみんなのヒーロースカイハイなのだけれど、マスクの下は私の恋人のキースなのよ」

それを忘れないで、と彼女は言った。

(こんなに心配してくれる大切な人がいるというのは、もうそれだけで喜ばしいことだ)

彼女を抱き寄せて私は、ありがとうと囁いた。

血などで染めずとも



[目次]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -