激しく震えた視線
彼の視線はいつもまっすぐである。いつも目を伏せている自分とはまるで月とすっぽんだ。
私は満足に彼の目を見て話せないのだ。
「おい」
「な、なんでしょうか」
緑間君に呼ばれるとどきりとする。(だって彼と私じゃあ釣り合わないじゃあないか。いくら前後の席で彼と話す機会が多いからと言って)
プリント、と彼はそれだけ言ってテーピングしてある手を差し出す。
「あっごめんなさい!」
慌てて受け取る際、若干指が触れ合い反射的に手を引っ込める。あまり人に触る文化がないのだ。たとえ偶然とはいえ。
ぱっと手を引っ込めてからもう一度謝罪する。彼はくいと眼鏡の位置を直しながら別に機にしていないのだよ、と言った。
(あれ?)
いつもまっすぐを見つめている彼が、ちらりと視線をそらしていたのだ。
激しく震えた視線
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