耳鳴りのせいにして


この年になってまさか目の前で泣いてる女子を見ることになるとは思わなかった。

そもそも女子とあまり接点がない若松にとって、泣いてる女子なんていうのはもう未知の生命体である。あの憎たらしい後輩のように可愛い幼馴染がいるわけでもない。

つまり対応が分からないのだ。何を言えばいいか何をすればいいのかわからない

ごめんね若松くん。唐突にそう嗚咽交じりに言われた。こんなほとんど関わりない女子の泣き顔なんて不愉快なだけでしょう。

そんなこと気にするな馬鹿と怒鳴りたくなり寸前で思いとどまる。今相手にしているのは憎らしい後輩ではない。泣いてる女子だ。

それに彼女からすれば、自分は関係のない男子かもしれない。けれど若松は彼女を見ていたのだ。知っていたのだ。ちょっと可愛い、なんて下心からではあるが。

くるり、と若松は彼女に背を向けた。彼女は屋上に続く階段の一番上で泣いていたので、万一上って来る人間がいたら、それから隠せばいいことだ。

俺には何も聞こえねえな。と誰に向けるでもなく呟く。

ありがとう、という彼女の礼は聞こえなかったことにした。


耳鳴りのせいにして



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