ひとりあそび
てん、と鞠が座敷の外へ転がってしまい、少女は慌てて手を伸ばした。
しかし少女の短い腕では鞠に届かなずに虚しく空振りしてしまう。
怒られちゃう、と少女は青くなる。病人である自分の触った物を外に出してしまうなんて。
しかも間の悪いことに足音が向こうから聞こえてくる。
父の怒鳴り声を想像して、少女は身を震わせた。
「これ、あんたのだろ?」
聞き覚えのない声に少女は顔を上げる。白い髪をした、父親よりは若い男。
「触っちゃ駄目!」
少女の鋭い声に、鞠を拾い上げようとした男は動きを止めた。
「触ったら、私の病気移っちゃうから」
だから来ちゃ駄目、お父様に見つからないうちに帰って。
しかし男はそれを聞いてにやりと笑った。
「心配するな、お前さんのそれは移るもんじゃあない。しかも、それを治す為に俺が来たんだ」
今までずっと一人だったんだろ?こんなところで寂しかったろ。男が頭を撫でてくれた、そこまでは泣かずにいられたのだ。
治ったら外に連れていってやる、その言葉でもう限界だった。
ひとりあそび
[目次]