曇天の涙

「傘を持っていないのか」

そう声をかけてきたのは、隣の席の緑間だった。

「んー、いや、とられたんだと思う」

「何の変哲もないビニール傘だったし。あるんだよね、こういうの普通に」

そう私が言うと緑間は盛大に顔をしかめた。まるで自分のことのように。

「それにしても運が悪かった。部活が終わるころにはさすがに雨も上がってると思ったんだけど。ひどくなってる」

緑間はしばらく黙って私の話を聞いていたけれどふいに持っていた深緑の蝙蝠傘を私に押し付けた。

「貸してやる。必ず返せ」

「緑間はどうすんの?」

「俺は折りたたみ傘を常時携帯している。ぬかりはないのだよ」

いつの間にか取り出していた(これまた深緑の)折り畳み傘を広げ緑間は言う。

「じゃ、借りる。ありがとう」

「乾かしてから返せよ」

「いやもちろん」

そこでその場での会話はひとまずお開きになった。のだが、ふと帰り道思い出した所によると。

(あれ、私と緑間って、話したのあれがはじめてじゃね?)

曇天の涙



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