ワタクシが何故彼女を好きになったのかはもう覚えていませんガ、彼女はきっと彼を好きになった理由を嬉しそうに語ってくれるのでしょウ
ワタクシは別段マゾヒストと言う訳でもないのですが、彼女の彼にまつわる話を聞くのはつらい思いと同じくらい、幸福に思うのでしタ。
(もっとも、そうでなければやっていられませんガ)
「インゴさん聞いてください、ついにノボリさんにプロポーズされちゃいました」
今日の彼女の第一声は、そんな言葉でしタ。
「…………それハ、オメデトウございまス」
やっと無難な言葉を搾り出したワタクシの視界が、ふいにぼやけましタ。
「やだ、どうしたんですか、インゴさん」
彼女はうつむき加減になったワタクシの頬を両手で包み込みましタ。
右頬の冷たい金属の感触が、よりいっそうワタクシを悲しくさせるのでしタ。
「いえ、何でもアリマセン」
おしあわせに、とワタクシが何百回も練習したその台詞を言うと彼女はふわりと微笑みました。
「ありがとうございます」