ゆめのなかでおあいしましたか


目が覚めると無人の客室車両(一昔前の重厚なデザインでした。)に一人座っていました。
盛大な汽笛が聞こえたのでどうやら蒸気機関車のようでした。このあたりには走っていないはずですが。それでは、ここはどこなのでしょうか。

(今日こそは帰れると思っていましたのに)

最近がひたすらに残業続きで、彼女の待つ家にも中々帰ることができない始末。

晴れて夫婦になったというのに。彼女にはもうしわけない気持ちで一杯です。とくに文句一つ言わないあたりが健気で愛おしく思えます。いえしかしそんな事を考えている場合ではないのでした。

窓を開けると、ぴちゃりと私の頬で雨粒が跳ね返りました(今日は雲ひとつない晴天でしたのに!)

たまらず私は座席から立ち上がり、先頭車両に向かって走り出していました。

車両同士を繋いでいるこれまた重厚な扉を開けると、そこは屋外で、どんよりした雲がたれこめている墓地しかも葬式直後のようでした。一体これはどういうことなのでしょうか。ですからここはどこなのでしょうか。

喪主と思わしき女性が、葬列客の最後の一人を見送ったのを見届けた私は、彼女に声をかけました。藁にもすがる思いだったのでしょう。

「すみません、」

彼女――喪服の老婦人――は私に気が付くと、驚いたように目を見開き、私の名前を呼びました。

「幽霊?」

自分の葬式の日にそんな若い頃の格好して出てくるなんてあなたにしては洒落が利いてるわね、と笑ったその顔は信じがたいことに、私の妻であるところの彼女なのでした(多少年をとってはいますが、見間違えるはずはありません)。

それに、確かに墓に刻まれているのは私の名前なのです。

年をとってもなお変わらない無邪気な笑みを浮かべた彼女に私はつい、問いかけてしまいました。

「貴女は、私と連れ添って、幸せでしたか」

口がからからに渇いているのが分かりました。恋人に自分がどう思われているのか不安に思うなど、なんて自分勝手なのでしょう!

彼女は私の心配をよそに、私の手をとって、私はあなたといられて幸せでしたと言いました。

「あなたが連れて行ってくれたカナワタウンで見た夕焼けもサザナミタウンで過ごした夏休みもたまに一緒に食べる夕食も、あなたがバトルしているところを見るのも全部、幸せだったわ。」

それに自分が幸せだったこともこうして伝えられたしこうやって最後に手だってつなげたのだがらこれ以上素晴らしいことなんてないわ。そう彼女は言いました。

「ありがとう、ございます」

私がやっとそう返すと彼女はぱっと手を離し、こちらこそとまた微笑みました。



…………がたがたと馴染んだ振動が伝わってきました。

シングルトレインで挑戦者を待っていたのだ、と思い出しました。もうすぐトウヤ様が到達されるはずです。

(今のは夢だったのでしょうか)

それにしては彼女の手のぬくもりははっきりと残っているのです。

「…………今日は久しぶりに家に帰りましょう」

そして彼女の手をとって、どこかへ出かけることを提案しましょう。


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主催企画「白線」提出物
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くそなげえ すみません
一番ノリノリで書いてるのはきっとどう考えても主催です
そしてお題をうまく消化できてないのも主催です。
相変わらず参加者様方が素晴らしすぎてまだまだ出てくるのかと思うとわくわくてかてかが止まりません。
白線にかかわってくださったすべてのかたに感謝をこめて


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