家族になりましょうと彼は言った


物心ついたとき、両親はすでに他界していた。

なんて、ありふれた陳腐な話の冒頭のような文だが、

私の場合はどうしたってそれが事実なのだから仕様がない。

しかし、特に意地の悪い養い親に虐げられるということもなく、

母の妹――つまりは叔母――に引き取られ充分な暮らしをしてきた。

これ以上の贅沢をいう気はさらさらない。

それでも時々は不安になるのだ。

「私は父さんや母さんに手を握ってもらったことも抱きしめてもらったことも覚えていないの。叔母さんの話を聞く限り父も母も親ばかだったらしいから、きっと当たり前にそういう愛情表現は当たり前にやっていたのだと思うのだけれど、何も覚えていないから。」

私は、たった今私にプロポーズした彼に向かって言った。

「私が家族というものを、ちゃんと構成できるのかって」

彼は、一世一代のプロポーズ決行直後とは思えないような、相変わらずの無表情で冷静に言った。

「では、私が貴女様の夫だけではなく、父親と兄を兼ねることにすればいいではありませんか。弟がほしいというならばクダリもおります。弟がもう一人欲しいというならば更に私が弟を兼任することも不可能ではありません。ですから、もう一度改めて言わせていただきましょう。私と、家族になってくださいまし。」

彼らしくもないその突拍子もない発案に私は涙が出るほど笑ってしまった。

途中から笑いと涙でどうしようもなくなった私を、彼は優しく抱きしめた。

よろこんで、と切れ切れに呟いたのは、ちゃんと聞こえただろうか。

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「霧遊病」の優果さんとついったで話していたネタ。
優果氏もしよければお持ち帰り可ですー


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