無意識のうちにそんな顔をしていたとは


楽しみすぎる、という昼間彼女の口から零れた呟きが、聞こえてしまったせいなのか、
今日は一日中クダリやクラウドにまで頬のゆるみを指摘される始末。

私が彼女とのバトルを楽しみにしているのと同じ感情を、彼女が私に抱いてくれているのなら、それはとても喜ばしい事でございます。

しかしながら、さすがに本人の前でしかも仕事の話をする時に頬が緩んでいては話になりませんので、顔を引き締めます。

「それでは、バトルスタッフ制度の詳細についてお話させて頂きます。まず、勤務時間についてですが、簡単に分けて早朝から夕方、昼から深夜の二つのシフトがあります。それと――」

そこから手取りの話などに入り、大体の話を済ませ、私は一旦言葉を切りました。

「さて、ここからは私の提案なのですが」

私がそうレイシ様に投げかけると、手取りの話などで軽く放心していたレイシ様が顔を引き締めました。

「なんでしょう!」

「レイシ様が今使用しているクダリの部屋をレイシ様にお貸しする、というのはいかがでしょうか」

このライモンシティは繁華街ゆえ、手ごろな物件を勤務開始までの数日中に見つけるのは困難でしょうし、例え見つけたとしてもその期間内に引越しまで済ませてしまうというのは更に難しいでしょう。

ならば最低限の家具も揃っている事でしょうし、クダリの部屋を使ってくださいまし。

そう私が言うと彼女はしばらく考え込みました。

「あぁ、無論光熱費などは頂きますが」

本当は、そのくらいこっちで負担してもいいのですが(そもそも私達二人の手取りとレイシ様の手取りとでは差がかなりありますし)、レイシ様の性格的にそれでは納得しないかと思ったのです。

「とりあえずその辺りを含めた雑費をもろもろ引くと、ざっとこの程度でしょうか。」

金額を表示した電卓をレイシ様にお見せすると、彼女はかなり残ってますよね!?といいました。

「妥当な金額だと思いますが。それにサブウェイマスターとして、私の下で働く方々のバックアップも仕事のうちです。」

レイシ様はしばらく考えた後、お言葉に甘えて、よろしくお願いします、と頭を下げました。

「話終わったー?」

そのタイミングを見計らったようにクダリがレイシ様にまとわりつきました。

「クダリ、妙齢の女性にそんな事をしてはいけませんよ」

「ノボリ怖い顔になってるー」

私が注意するとそう言いながらクダリはレイシ様から離れました。

(……そんなに怖い顔をしていたでしょうか)

意識は特にしていないつもりだったのですが。