この為にわざわざうっかり買ってしまった淡い色の弁当箱


人の為に作るお弁当というものは、その人が好きなおかずなどを入れるべきじゃないかと思ったりはしたのだが、そもそも彼のおかずの好みなど詳細は知らないし(付き合い長いのに)そもそも付き合ってもいない相手にそんな至れり尽くせりの弁当差し出しても、いたずらに困らせるだけではないかと思ってしまった。

ので、なので結局できたのは、よく言えば無難悪く言えば……遠足に行く子供に持たせるような中身のお弁当である。

本当にこれで大丈夫かと首を傾げていたら(作って持って来ているというのに我ながら往生際が悪い)午前中などあっという間に過ぎてしまった。

とりあえず昼に来て、とクダリには言ってある。向こうの昼休憩がちょうど始まる時間だ。

「アケビー!」

休憩時間が始まった瞬間に襲来したクダリ。仕事はどうした、というツッコミは彼に対して野暮である。

おなかすいた、とクダリが言ったので、送ってくれた礼にと言ってはなんだが弁当を作ってきたから食べてほしい、と簡潔に説明する。

すると意外なことに、クダリは稀に見る満面の笑みでこちらを見てきた。

「ありがとう!」

食べていい?とそわそわしながら聞かれたのでもちろん、ととりあえず答える。

卵焼きをひとつひょいとつまむクダリ。そのまま無言で咀嚼し飲み込んだ。

「おいしい?」

おいしい?という言葉の前に誰かの名前を足しそうになってあせる。

(あの子のより、ノボリさんのより、おいしい?だなんて)

「うん、今まで食べた中で一番おいしい」

変わらずに満面の笑みでクダリがそう言った。

「あ、ありがとう」

なぜかそれに対しての礼は、しどろもどろになってしまったのである。


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