結局かばんには不自然な痕がしばらくついていた


ギアステに勤務して数年の今日、彼が突然提案してきた。

「今日、帰り、送る!」

それが彼の特徴とはいえあまりにも片言すぎる。なんで?ととりあえず聞いてみる。

「だってほらこの前、絡まれてたでしょ?だから用心の為。」

ノボリはあの子送ることになってる。にっこり笑うクダリ。

「つまりお互いあぶれたと」

意地悪な言い方をしてしまった。取り消そうとしたがそれより早くクダリが言う。

「僕がアケビと一緒に帰りたかったから」

「……そりゃどうも」

にこにこと彼は笑っている。むしろポーカーフェイスというべき笑顔。

「じゃあ僕着替えてくるからちょっと待ってて!」

白いコートを翻して彼は駆けていく。ノボリが見たらきっと目くじらを立てるはずである。

彼が去ったのを見届けて私はずるずると壁にもたれかかった。

だって今更言動に照れるとかそんな、情けない真似。

鞄を抱き潰さんばかりの形相が、誰にも見られなくて本当によかった。