まるめたピンクの包み紙


クダリとデートした記憶なんてないけれど強いていうならアレがそうだったのかもしれない。数年前のことである。

クダリが女の子に振られたと聞いて。私はクダリをいつぞや行ったクレープ屋に誘った。
あれはまだお互い就職したてのときか、懐かしい。

「仕事と私どっちが大事なの?なんてさぁ、現実で聞くことがあるなんて思わなかったよねぇ!」

コーヒーを啜りながら彼はそう笑い飛ばす。

「何それその子素面で言ってたの?」

「いたって真剣そうだったよ」

クレープの包み紙を丸めて投げるクダリ。紙屑は外れて地面に落ちた。チッと小さく彼は舌打ちをする。

「あーあ、僕って女運ないのかな」

「やめてよ耳が痛い」

「そういえばそっちも最近別れたんだっけ」

「そういえばそうだったわね」

忘れていた、その程度の男だったとそういうことか。

「ねぇクダリ、」

「何?」

私は自分の包み紙と、そして彼の外した包み紙を拾い上げ、ゴミ箱に投げ込んだ。

「次はいい人見つかるといいね」

「ありがとう。そっちもね」

何回目したっけ、この会話。

(何で言えないのかしら。言おうと思えば言えるはずなのに)

いっそ私と付き合ってみない。幸せにできる自信はあるから。と。

(いや、やっぱり無いな)

そういえば彼はこれ以来、誰かと付き合ったという話をしてこない。