呼び止めるべきだと思ったのです


今日、シングルトレインにいらっしゃった挑戦者の方に一人、印象的な方がいらっしゃいました。


その戦法はさながら力押しのようなのですが、
しかしバトルが進むにつれて綿密な計画の上に成り立っている、彼女の人格を如実に表しているようなものでありました。


結局私が惜しいところで勝利致しましたが、いつものような楽勝の時の空しさはなく、
久しぶりの、純粋に楽しかったと思える勝負でございました。


あぁぜひまた挑戦、いえいっその事あのような人材がこのバトルサブウェイに来てくれたら、
などと取り留めの無い事を考えつつ、終電が去ったホームを見回ります。



(確かレイシ様でしたか……)



バトルレコーダーにあった名前を思い返していますと、前方のベンチに黒い塊が見えました。


いつもはちょっとした落し物、忘れ物程度なのですが今日は少し違ったようです。


その塊に少し警戒しつつも近づいてみます。


その正体は、


「あ」


ホームの椅子に小さく丸まって、私の靴音に顔を上げたその方は、


「レイシ様ではありませんか」


さっきまで私がぶつぶつと考えていた彼女だったのです。


少年じみたその格好を間違えるはずはありません。


彼女は反射的に立ち上がりすみませんと私に謝った後、出口へ通じる階段へ向かいます。


しかし彼女の格好はどう見ても旅行用の軽装。つまりライモンシティ外からのお客様。


それにそもそも行くあてがあるならこんなところで夜を明かそうとはしないでしょう。


「お待ちくださいまし」


そこまで考えた私は、とっさに彼女の腕を掴んで呼び止めていたのでございます。