言われたとおりのところで見つけたレイシ様の顔には、はっきりと涙の跡が付いており軽く自己嫌悪に陥りかけたのですが、今はそんな場合ではございません。
レイシ様に単刀直入に先ほどのことを謝り(うまく撤回できました。本当によかったと思います)、更に話を続けました。
「そもそもあんな事を言ってしまったのは、私の勘違いからなのです」
レイシ様が告白されているのを見て私は、レイシ様に恋人ができたのだと勘違いしてしまったのです。
そう私は続けました。
「ですからこんな異性の上司と必要最低限以上の交流をもつのはあまり喜ばしくないことだと思ったのです。ですが、クダリに言われて気が付きました。私は、レイシ様に恋人ができるということが――まぁレイシ様の恋人については私の勘違いだったのですが――喜ばしくないことに気が付いてしまったのです」
話が見えない、といった顔のレイシ様。
「私が、この世で一番レイシ様を幸せにできると思うのです」
一拍後、うつむき加減のレイシ様の顔が紅く染まっていくのがわかりました。
「それっ、て、え、あの、」
「私は、レイシ様のことを、好いているのです」
私とお付き合いしていただけませんか、と私はレイシ様の手をとりました。
「もちろん答えは今すぐでなくてもいいのです。」
むしろ答えをもらえずともかまいません、と私が言いかけたそのとき、レイシ様がぎゅうと私の手を握り返しました。
「いえあの、ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」
「……えぇ、こちらこそよろしくお願いいたします」
思わずレイシ様を抱きしめたい衝動に一瞬かられてしまいました。
まったく自覚するとは恐ろしいものです。
何はともあれ、ひとまずレイシ様の涙の跡を、私以外に見せないために、ここから一番近くしかも人気のない洗面所まで案内することとしました。