少しだけすっきりしたところで


「レイシ様が告白されてからというもの、私は徹底的にレイシ様を避け続けていました。理由を聞かれてもはっきりとは答えられないのですが、強いて理由をひとつあげるとするならば、やはり気まずさからなのでしょう。彼女はあのお客様と恋仲になられたのでしょう。それならば私のようなどこの馬の骨ともわからぬこんな上司と弁当の作りあいなどと称して必要最低限以上の交流を持つのはあまりよいことではないのでしょう」

カミツレに一部始終を話すと、彼女は目を細めてそう、と呟きました。

「レイシちゃんに本当に恋人ができているとするならば、確かに異性の上司とのそういった交流は避けるべきね。でもそれはミスターノボリの勘違いかもしれないし――」

途中から私はカミツレの話をほとんど聞かずに私はレイシ様にかける一週間ぶりの台詞を考え始めました。やはりレイシ様を傷つけないよう慎重に言葉を選んで、

「――まぁ頑張って、ミスターノボリ」

カミツレの励ましを背に私はレイシ様を探し始めました。確かこの時間はシングルトレインでしょうか。

するとクダリから無線連絡が来ました。

「もしもしノボリ、レイシなら今、ダブルトレイン十八勝目だよ。最終ホームに迎えに来てあげてね!あっ今十九勝した」

……どういうことでしょうか。あの真面目なレイシ様が自主的に持ち場を離れることは考えられません。

とりあえず私は、ダブルトレインのホームでレイシ様を待つことにいたしました。

程なくして停車した電車。ドアが開き下車してきたレイシ様に私はお疲れ様ですと声をかけました。

「提案なのですが、食事の作りあいは今後控えるべきではないかと」

私が言い終わらないうちにレイシ様はみるみるうちに悲しそうな顔になり、ばたばたと走り去って行きました。

遅れて下車してきたクダリの口が無表情に「ば、か」と動くのが見えました